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「うわ、あれだ」
空に浮き上がると、どこにソレが落ちてきたのかはすぐ分かった。
家からは歩いて五分程度の場所だ。
元々この家も森の中にあり、学園や街とは距離があるため、街の人は気づいていないだろう。
ロトは顔をしかめて、ゆっくりと近づいていく。
「なにあれ、あんなの初めて見たよロトちゃん」
スクは目を丸くしながら、ロトに並んで飛んでいる。
「僕も初めて……いや、どっかで見たことあるな、あれ」
巨大な白色の物体の固まりが落ちて、しばらくその勢いのまま滑ったのだろうか。
近くの木が倒れてしまっている。
バキバキ、という音はこれだったらしい。
「最近なにかの本で見た。なんだっけな、スクは知らない?」
「えぇ、ロトちゃんがわからないものは俺はわかんないよ」
うーん、と考え込んでいたロトだが、そのままゆっくりと物体に向かって降りていく。
「わわ、待ってよロトちゃん」
慌ててスクも後を追う。
とん、と地面に降りたロトは、落ちてきた物体を見て首を傾げる。
「これ、乗り物?」
「乗り物? 魔力はなさそうだけど」
続いて降りてきたスクも、首を傾げる。
「だよね、魔力はないよね。おかしいなあ」
ぐるっとまわりを回ってみるが、思った以上に大きい。
傷んでいるのか、なくなっているものがあったり割れている部分がある。
「ねね、ロトちゃん! ここ、入り口みたいなのがあるよ!」
スクが呼ぶ声に、慌てて駆け寄るロト。
確かに、切れ目があって開きそうだ。
「本当だ。開けてみる?」
「え、大丈夫かな」
「なんとかなるでしょ。開け!」
ロトが唱えると、ゆっくりとドアが開いていく。
中から空気が漏れ出てきたが、どうも空気がここのものと違う。
ロトはそっと中を覗く。
真っ暗だ。
「なにかある?」
「ちょっと待って、探ってみる」
壁に手を当てて目を閉じたロト。
ロトの手が淡い光を放ち、物体全体が光り出す。
ハッと目を見開いたロト。
「人がいる」
「えっ、人?」
「三人いるみたい。まだ生きてる、助けるよ」
「えっ、ちょっ」
手に持っていた箒で浮き上がり、サッと中に飛んで入ってしまったロト。
スクも慌てて後を追う。
「わ、すごい……なにこれ……」
内部は何かよく分からないものがビッシリと並んでいる。
目を丸くしているスクの隣で、ロトは周りを見回す。
このあたりだったはずだけど。
「いた。人だ」
ふわり、その人の側に降り立つ。
「スク、他の人がどこにいるのか見てきて。他の二人は近くにいるはず。僕はこの人を運ぶ準備をするから」
「わかった。任せて」
箒で飛んでいったスクを見送って、ロトは目の前で倒れている人を見る。
自分たちと似たような顔立ちをしているが、魔力はまったく感じられない。
それどころか、いつ死んでもおかしくなさそうなくらい生気がない。
「とりあえず」
効くのかどうかは分からないが、治癒魔法をかけてみる。
顔色が少し良くなったのを見て、効いたのだと安心した。
「ロトちゃん、いた! こっちに二人いるよ!」
「わかった、今行く」
スクが呼ぶ方に飛んでいってみると、二人並んで倒れている。
感覚通り、どうやら三人とも男の人のようだ。
同じように治癒魔法をかければ、少し生気が戻ってきた。
「家まで運ぼうか。スク、一人は運べる?」
「一人なら大丈夫だと思う」
「じゃあさっきの人をお願い。僕はこの二人を運ぶよ」
「うん」
戻って行ったスクを見て、ロトは二人を浮かせる。
二人に追従魔法をかけてからスクのところに戻ると、スクも同じように人を浮かせていた。
「大丈夫。帰ろうか」
ちゃんと魔法がかかっているのを確認して、ロトは頷いた。
「空いてる部屋ってあるの?」
「あるよ。あの家、めちゃめちゃ広いから」
「そうなの?」
外に出て、また空高く浮かぶ。
やはり、不思議なくらい大きな物体だ。
「魔力もなしに、どこからきたんだろう」
呟いたロトの言葉に、スクも首を傾げる。
見当もつかない。
庭に出ていたユキが、二人が飛んで帰ってきたのを見つけてクルクル回っている。
「ただいま、ユキ。人を拾ってきたよ」
「その挨拶、俺だったら嫌だなあ」
箒から降りて、家の壁に箒を立てかけるロト。
スクもその隣に箒を立てかけて、家の中に入っていく。
後ろには三人、人を浮かせたままだ。
「どこの部屋?」
「二階にしよう。同じ部屋の方がよさそうだから、広めの部屋に」
階段をあがっていくロトの後ろに続いていく。
「ここかな」
部屋のドアを開けて入っていくロト。
「わ、広いねここ」
「んね。昔からお客さんの部屋だったみたい。ちょっとホコリが」
サッとロトが右手を動かすと、物が勝手に動いて掃除されていく。
いつの間にか、ちゃんとベッドも三つ用意されていた。
慎重に三人をベッドに寝かせたロトとスク。
「大丈夫かな、この人たち」
「どうだろうね。誰か起きたら教えてね」
そう部屋に呼びかけると、壁にかかっていた時計がひとつ鳴った。
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