風花の舞う谷

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 雪といえば忘れもしない。は、もう雪に埋もれてしまっただろうか。  時期は、そう春だった。寒さを苦手とする私が、山間(やまあい)寒村(かんそん)に冬出向くなど考えられないことだ。街には心地よい春風がそよぎ、暖かな空気に包まれていたことだろう。  その村も交通の便(べん)の悪さから住人が減り続け、限界集落になってからずいぶん経っていたらしい。そんな村が消滅する前に、幸運にも訪れる機会を得たのだ。  村には既に、老婆が一人居るきりだという。消滅は時間の問題だった。  そのとき、風花舞い落ちる谷底に、村は確かに存在していた。
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