7人が本棚に入れています
本棚に追加
雪といえば忘れもしない。あの村は、もう雪に埋もれてしまっただろうか。
時期は、そう春だった。寒さを苦手とする私が、山間の寒村に冬出向くなど考えられないことだ。街には心地よい春風がそよぎ、暖かな空気に包まれていたことだろう。
その村も交通の便の悪さから住人が減り続け、限界集落になってからずいぶん経っていたらしい。そんな村が消滅する前に、幸運にも訪れる機会を得たのだ。
村には既に、老婆が一人居るきりだという。消滅は時間の問題だった。
そのとき、風花舞い落ちる谷底に、村は確かに存在していた。
最初のコメントを投稿しよう!