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雪の村
「残雪が目立ちますね」
「高い山に囲まれてますからなぁ。春でも風花が舞うほどですよ」
「風花かぁ。眺める分には綺麗ですが、寒いのはどうも苦手で――子供の頃は雪の中を走り回っていたっていうのに、今ではめっきり。――不思議なものです」
「そりゃあ風邪ひかんよう、気ぃつけてください。仕事が予定通りなら、日暮れ前には迎えに来れますから。――とはいっても、ここは日がくれるのが早いですからなぁ」
村には営林署の職員に送ってもらえた。この辺鄙な山奥に公共交通機関などあろうはずもなく、タクシーを使えば取材費など吹き飛んでしまう。それも、到着してみれば納得の場所だったのだ、まるでタイムスリップでもしたかのように……。
青く晴れわたった空から降り注ぐ日差しは暖かい。が、村へ続く小道には風花が舞い積り、まるで真冬の風景だった。こうなることを事前に知っていたなら、取材は諦めていただろうに。私は、実は雪が怖かった。白く柔らかな影に包まれ、意識が無に溶けてゆく恐怖にうなされることがあった。
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