雪の村

2/2
前へ
/13ページ
次へ
 村は高い山と山の間の、猫の(ひたい)ほどの平地に、何軒かの(ふる)い木造家屋(かおく)が建っていた。それでも目的の家はすぐに確認できた。その家だけが、煙を出していた。  村に向かう小さな小道を進むと、村はずれに小さな石碑を見かけた。比較的新しいようだが、レイアウト用に一応写真に収めておく。  村の中心部と思われる場所まで近づいてみると、建物の板壁は腐りところどころ穴が開き、柱も朽ちはじめていた。空き家はどれも、廃墟の様相を呈するほどに傷んでいる。  建物の陰には雪が多く残り。山の尾根に顔を覗かせる太陽の光を浴びて風花が舞っている。村は穏やかであるが、はるか上空を流れる強い風が山頂の雪を舞い上げ、頻繁に降らせているのだ。訪れる者にとっては物珍しくもあるが、定住している人たちにとっては春の訪れを阻む意味もあったのだろう。村は正式な名のほかに雪の村と呼ばれていたという。  それというのも、こんな辺鄙(へんぴ)な場所でありながら昔は湯治場があり、スキー客を受け入れる宿も盛んだったらしい。そこで、栄枯盛衰(えいこせいすい)し消えゆく村の歴史を記事にして記録に残そうと、地元自治体が働きかけたものらしい。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加