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「それで、事故というのは?」
「東京から来た、若い夫婦のお子さんが行方知れずになったとです――両親共、相手が子供の面倒みとると思っとったらしくてな、大騒ぎになりましたが――」
「それで、お子さんは無事だったんですか?」
「えぇ、無事でしたよ。けんども、後がなぁ。噂というか――」
言いよどむ老婆に、なにか引っ掛かるものを感じた。
「噂というのは? 何か問題があったということですか?」
「小さな村ですから、噂はすぐに広まりますからな――」
両親が別々にゲレンデで滑っている間、子供は休憩所で、一人で遊んでいたようだ。子供の姿が見えなくなり、日が沈みはじめて両親が騒ぎ始めると、村の人達総出でその子、まだ十歳にも満たない男の子を探してくれたのだが、見つからない。
そこに、行方不明になった子供に村の若い仲居が声を掛けていたと証言した者が現われたことから、単純な迷子や行方不明の様相が一変した。その若い仲居は、子供の父親をよく知っていたのだ。父親は大学生時代スキーのサークルで幾度か、この地を訪れていた。父親と若い仲居はいつしか懇意となり、やがて関係を持った……。
行方不明となった子供とは、――私だった。
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