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エピローグ Esperanza 希望
──それから、三ヶ月後
「……ん……ふわぁっ……!」
窓から聞こえる海のさざなみに耳を刺激され、俺は目を覚まし、身体を伸ばす。
「優太さん、やっと起きたの?」
「…夜更かしなんかしてないのに…」
「小樽のグラスで、飲みすぎちゃったんじゃない?」
「…だって、あの泡盛、美味しすぎたんだもん…」
目を覚まし、俺の目の前には大好きでやまない一平がニコッと微笑みながら、俺に声を掛けてくれる。
優太さんの『さん』だけは今でも抜けないけれど、敬語はいつの間にか無くなっていた。
『もう、絶対に敬語使いまくってやりますからっ‼ 敬語やめろとか言わせないようにしてやるっ‼』
顔を真っ赤にしては、君があんなに抵抗してきたあの日々が懐かしい。一緒にいる時間が長くなればなる程、これこそが今まで以上の『互いの素』が見えるということなのだろう。
そして、俺たちはこの三ヶ月で沖縄の本島を離れ、ポツンと佇む小さな島へと移り渡り、平和な日々を過ごしていた。
彼女や家族からの追っ手も今のところは何も無く、幸せな日々が流れていた。
これも大輔さんがあの日、助け舟を出してくれたからこそ今の全てに繋がっているのだろう。
札幌の家の退去手続きに加え、クローゼットに入れて置いた荷物も送ってくれた。会社の離職もあの手この手を使っては、遠く離れた場所から沢山の助言をしてくれた。
大輔さんに出会っていなければ、俺たちの道はどんなものになってしまっていたのだろう…
自暴自棄になりながらも、あのサウナに行かなければこの恋は『とんでもない方向』に進んでいたのかもしれない。
そんな大輔さんに俺たちは、何かを返すことが出来ているのだろうか…それは、遠く離れてしまった大輔さんにしか分からないこと。
「クロ、おはよ」
『ンニャー!』
「クロちゃんも朝ご飯を食べたから、優太さんも早めに朝ご飯を済ませてね?」
リビングに置かれたダイニングテーブルに俺は腰を据え、一平が作ってくれた朝ご飯に口をつける。今までは弁当生活だった俺にとって、一平が作ってくれた味噌汁は、朝から身体によく沁み渡る。
「この後、お客さんを迎えに行くの忘れてないよね?」
「ああ、忘れるわけねぇよ」
「なら、早く食べて手伝ってね?」
「はいよ、分かっております」
朝ご飯を食べる横でせっせと家事をする君を見ていると、今でも微笑みが零れてしまう。
今まで自分の気持ちを抑えていた君が今はとても楽しそうで、何より今まで以上に輝いて見える。君から時折怒られることもあるけれど、それさえ君の『本当の気持ち』だと思えるからこそ、全てが愛おしくて堪らない。
でも、怒られたからには、俺も俺でちゃんと直さないと…
「ねぇ、優太さん? こんなんでいい?」
「ああ、今日もかっこいいぞ?」
「も、もうっ! ゆ、優太さんも似合ってるもん! あーっ! 恥ずかしい!」
食事を済ませ、お客さんを迎えに行くために着替えを済ませただけなのに、この初々しさ。
何ヶ月経っても何年経っても、きっと俺たちはこのままなんだろうな。
そんなワイワイとした会話を済ませ、出掛ける用意が出来た俺たち。そして、クロを優しく抱いた一平と共に、俺たちは仲良く家を後にした。
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