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22.やはり、彼女は普通の女とは全く違う。
皇妃の部屋には、ベッドの下に隠し通路がある。
皇宮中の騎士にモニカを探させているが、隠し通路を使われて皇城外に出られたら目も当てられない。
ベッドの下を覗くと、なぜか絨毯に切れ込みが入っていた。
(教えてないのに、ここの隠し扉に気がつくか?)
やはり、彼女は普通の女とは全く違う。
天使のように可愛く、人の心を惑わす悪女で、いつも俺の想像を超えていく。
隠し扉の位置に気が付いただけでなく、ベッドを動かさずに中に入り込んだという事だ。
そういえば、彼女は折れそうなくらい華奢な体をしていた。
彼女との初めての夜を思い出すと、今でも体が熱くなってしまう。
(ダメだ⋯⋯もう皇帝である前に、モニカ愛するだけの男になってしまおう⋯⋯)
俺はそう決意し、馬に跨り隠し通路の出口の方に回った。
実は出口の方は鍵がないと出られなくなっている。
その鍵は皇家に代々伝わる、バラルの指輪だ。
俺は彼女にその指輪を渡していない。
(出られないぞ、どうするんだモニカ!)
俺はモニカが散々歩いた上に外に出られないと可哀想だと思い、出口を壊して隠し通路に入った。
(もう、この隠し通路は閉鎖しないとな⋯⋯)
隠し通路を逆流して走っているとモニカのプラチナブロンドの輝く髪が見えて、俺は思いっきり彼女を抱きしめた。
(ずっとこうしたかった。愛しているモニカ⋯⋯心から)
子供が欲しかったと泣きそうな声で目を潤ませる彼女に申し訳なくなり胸が苦しくなった。。
スレラリ草の成分をモニカが摂取してしまったのは、確認したら2回だった。
そのような微々たる回数であれば、子作りに勤しめばおそらく問題ない。
俺が毎晩彼女を抱くと宣言すると、なぜか拒否された。
(本当に俺のことが好きじゃないのか⋯⋯散々人の気を引いといて酷い残酷な女だ⋯⋯)
モニカの部屋に戻り明るいところに来ると、彼女の髪が短くなっているのを再確認させられた。
腰まで届いていた美しい髪をバッサリと切ったのは、彼女が本当に身分を捨て俺から逃げようとしたということを思い知らされる。
「専属メイドのルミナはどうしたんだ?」
「マルテキーズ王国に返しました⋯⋯」
モニカがマルテキーズ王国から連れてきた専属メイドだ。
新しいメイドを彼女につけようにも、皇宮で信用できるメイドがおらず誰を指名して良いか考え込んだ。
「新しいメイドはいりません。また、毒を盛られても困りますし⋯⋯陛下はただ私と離縁してください」
モニカが左下を見つめながら話していると、アメジストのピンが目に入った。
デザインがバラルデール帝国で流行しているもので、彼女が皇宮で購入した記録にはなかったピンだ。
(あれ? ジョージア・プルメル公子からのプレゼントか?)
瞬間、脳が沸騰しそうになるが、俺は必死に怒りを沈めた。
嫉妬をしている暇はない。
彼女の心を掴むことに集中するべきだ。
「モニカ、俺は昔から人を信じない。メイドをつけたら下手な誘惑をされたり、毒を盛られそうになったこともあった。だから、自分で自分のことをやっている。だから、メイドがするような事は俺にもできる。俺が君の世話をしよう」
俺は自分の身の回りのことは自分でやっている。
だから、彼女のことも手伝える。
そのように、彼女と触れ合う時間を増やして心を通わせていければと思った。
「陛下が1番信用できません。私の世話とか言って、入浴の手伝いをしたいだけでしょ、変態ですね」
入浴の手伝いというか、一緒に入浴したい下心があったことがバレてしまった。
(流石はモニカだ⋯⋯察しが良い)
「じゃあ、君が俺の世話をしてくれ。いつでも、俺を殺せるぞ」
俺は机に置いてあるナイフを彼女に手渡した。
彼女は無言でナイフを受け取った。
「陛下、髪が長いので、切ってあげましょうか。これから、暖かい季節になりますわ」
モニカは天使のように微笑んでいた。
彼女からは殺意を感じないから、俺を殺す気はないと信じたい。
しかし、彼女は実は手先が不器用なのではないかという疑いが消えない。
きっと、カイザーに渡したハンカチは何度も練習した後のものだ。
練習中の刺繍したハンカチは、赤い血が飛び散っていた。
「本当か? 嬉しいな。君は本当に優しい妻だ。お願いするよ」
モニカが歩み寄ってくれた機会を逃してはいけないという気持ちと、手が滑って首を切られたらどうしようという思いが交差した。
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