24.陛下の気まぐれの愛に付き合うのが怖いのです⋯⋯。

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24.陛下の気まぐれの愛に付き合うのが怖いのです⋯⋯。

 陛下が私をじっと見つめて口づけをしようとしてくるので、私は思わず避けた。 「私を抱かないのではないのですか?」 「寒いから強く抱きしめて欲しいと言っていたではないか? それに、俺も魔性の悪女に惑わされて見ようと思ってな」 「私は悪女ではありません。自分の皇城脱出という目的の為に自分の持つ女の武器を使っただけです。反省すべきは、バラルデール帝国の夜間警護の騎士が自分の役割を瞬間でも忘れてしまう平和ボケ加減ではないですか?」    私はベッドから立ち上がり、このバラルデール帝国の問題点を彼に説いた。 「戦場に赴く第1騎士団などと違い、主に警護や護衛にあたる近衛騎士は危機感が足りません。帝国の皇城を攻められる事など想定していないのが丸わかりです」  バラルデール帝国は世界一の強国だ。  確かに1カ国でこの国を落とすのは不可能だろう。 「なぜ、今、真夜中の部屋に2人きりだというのに、そのような色気のない話をしているのだ?」  陛下は先程まで怒りのままに私を抱こうとしていたが、今は笑っている。  ベッドに座って、どうやら私の話を聞いてくれそうだ。  この1ヶ月で帝国のあらゆる問題点に私は気がついた。   「なぜ、レイモンド・プルメル公爵が先皇陛下を暗殺したか分かりますか? それは政治の方向性が違ったからではありません。陛下を1日でも早く皇帝にする為です」 「どういう事だ?」 「陛下は争いがあると城を空けて戦場にいきます。その時は帝国一の第1騎士団を連れて行きます。もし、その間に真夜中皇城が奇襲攻撃に遭ったらどうしますか?」 「一体、どこの小国が帝国に奇襲攻撃を仕掛けてくるというのだ」 「まず、陛下を暴君に仕立て上げます。そして、その暴君を倒すという体で周辺諸国に働きをかけます。レイモンド・プルメル公爵は他国をの武力を借りて、帝国を乗っ取る計画がありました」  レイモンド・プルメル公爵は他国と頻繁に交流を持っている。  そして、プルメル公爵家が持っていた第2騎士団の武器は他国に横流しされていたのではないかと私は睨んでいた。  第1騎士団と異なり、実質、ほとんど帝国に留まっていた第2騎士団の武器の仕入れは第1騎士団を上回っている。 (訓練で破損したというには無理がある量だわ⋯⋯) 「意図して仕立て上げられなくても、俺は暴君だ⋯⋯どこか、昔から壊れているんだ⋯⋯」  陛下が寂しそうに言った言葉に胸が締め付けられた。  私から見れば、陛下の生まれた境遇は誰よりも恵まれている。  しかし、彼には彼なりの悩みがあるのかもしれない。  実際に私も人には言い難い悩みを抱えている。 「陛下は暴君ではありませんし、私も悪女ではありません。陛下⋯⋯レイモンド・プルメル公爵を葬っただけで安心してはなりません。当然、公爵の後ろに隠れて甘い汁を吸おうと思ってきた貴族たちがまだいます」    陛下は皇帝としての仕事をしっかりやっている。  女に溺れる訳でも、誰かを贔屓する訳でもない清廉潔白で公正な方だと評価されて然るべきだ。  ただ、争いが好きな一面を見られて暴君と呼ばれてしまっている。 「モニカは俺の心配をしてくれているのか? それは俺のことを好きだからじゃないのか? なぜ、逃げようとするのだ?」  私は気がつけば、またベッドで組み敷かれていた。  陛下ほど全世界の女は自分が好きだと勘違いしてしまう地位の方はいないだろう。  彼が豚のような見た目なら勘違いはしないが、皇帝の身分でなくても色気があって美しくモテそうだ。  私も美しく優しそうな彼が新しい主人だと思って浮き足だった。  エメラルドの瞳がじっと私を見つめてきて思わず目を逸らす。 「陛下の気まぐれの愛に付き合うのが怖いのです⋯⋯」 「気まぐれじゃない。俺は心から君を愛しくて大切に思っている」  陛下はずるい方だ。  私は愛していると言われるより、愛しいとか大切と言われる方が嬉しいらしい。  陛下がゆっくりと唇を重ねてきて、私は目を閉じてそれを受け止めた。  「ここまでです。陛下、これ以上、約束を反故にする事は許しません」  私は陛下に私の心を得ないのに抱くことはないという約束を守らせる事にした。 「許しませんって⋯⋯じゃあ、何もしないから一緒に眠ろう。モニカが逃げないように見張らないと」 そういうと、陛下は私の隣に寝そべり、私を強く抱きしめた。 「陛下⋯⋯流石に強く締め付けすぎです。朝起きた時には私は窒息死してますよ」  私の言葉に陛下は少し笑って優しく抱きしめなおしてくれた。  私は陛下の爽やかな香りを嗅ぐと安心して、そのまま眠りについた。 ♢♢♢ 「うう、重い⋯⋯」  朝、目が覚めると陛下が私を抱きしめながら乗っかっている。 (確かに、これは逃げられない⋯⋯) 「起きてください。流石に重いです」  私が陛下の顔をペチペチ叩くと、徐に陛下がエメラルドの瞳を覗かせた。 「モニカ⋯⋯朝食を食べたら、一緒に政務会議に出よう」  私は陛下の言葉に心が躍るのを感じた。  政務会議に一緒に出席するという事は、私をかなり信用してくれたという事だ。  彼から逃げようと思ったのに、「愛しい、大切」という言葉にまた期待してしまっている。 (まあ、逃げようと思えば、いつでも逃げれるか⋯⋯)  眠っていて気がついたのだが、おそらく陛下のベッドの下にも空洞がある。 (新しい隠し通路発見したかも⋯⋯)
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