27.モニカ、結婚式をしないか?

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27.モニカ、結婚式をしないか?

 俺もエステラ・アーデンの罪をカイザーの罪とは思っていない。  俺がジョージア・プルメル公子に死んで欲しかったのは、モニカと親密だったからで完全に私怨からだ。 「あの死体は誰なんだ」 「クレアです」  微笑みを称えながら応えるモニカに、俺は自分も同じように恨まれていることが予想できた。  自分に毒を盛った人間を処刑したのだから、当然指示した俺のことも殺したいくらい憎いのだろう。   「私は先程もお伝えした通り覚悟を決めています。反逆者一族の人間を逃しました。それは極刑に値する大罪です」  目を瞑って俺に委ねるように沙汰を待つ彼女は本当にずるい女だ。  俺は彼女を手放せない。  無垢で、残酷で、賢くて愛おしくて仕方がない俺の妻だ。 「モニカ⋯⋯君に罰を与えるよ。一生君が憎くてたまらない俺の隣で過ごすんだ⋯⋯」  俺は自分の願望だけを伝えて、彼女に口づけをした。  彼女が誰を好きだとか、本当は俺の敵だとかどうでも良い。  ただ、一緒にずっといたくて、彼女の笑顔がまた見たいだけだ。 「一生ですか? 本当にずっと私と一緒にいたいと思っているのですか?」 「だから、そう言ってる⋯⋯モニカ、君を心から愛している」  モニカがゆっくり目を開ける。  本当に無垢な色をした瞳だ。  俺は彼女の瞳が幸せそうに輝いていた瞬間を知っている。    彼女はもっと明らかに好意的な目で俺を見ていてくれていた。  今は、俺を見ると呆れたように直ぐに目を逸す。 「一時的にそう思っているだけで、陛下は私を愛してなどいませんよ」 「どうして、そう思うんだ⋯⋯」  感じたことのないような強い感情で彼女を求めているのに、彼女は全く俺の気持ちを信じない。  確かに、彼女に酷い事ばかりしてきた自覚はある。  本当は最初から彼女に惹かれていて、その気持ちは日に日に溢れて今抑えきれなくなったと言っても信じてもらえないだろう。  俺自身初めての感情で全くどう扱って良いか分からなかった。   「先程の政務会議でも、私が侮辱されているのに陛下は庇ってもくれませんでした⋯⋯」  俺は全く何のことを言われているか分からなくて、ひとまず黙った。  政務会議では予想外に攻撃的で口が回るモニカに気を取られた。  彼女がどの瞬間侮辱をされたと感じたのかが分からない。  もしかしたら侮辱をされたと感じて、攻撃的になったのかもしれない。   (実は結構繊細で傷つきやすいのか?) 「すまなかった。そうだ、モニカ、結婚式をしないか?」 「嫌です⋯⋯陛下が私に飽きるまでは一緒にいます」  そっけなく言うと、モニカは立ち上がって部屋の外に出て行こうとした。 「どこに行くんだ?」 「今は自由時間ではないのですか? 私はただ、カイザー皇子に会いに行きたくて⋯⋯」 「なぜだ?」 「カイザー皇子と一緒にいると心が温かくなるのです。いつでも、遊びに来て良いと言って頂いたのでお話しをしに行こうと思いました⋯⋯」  モニカは俺から目を逸らしながら寂しそうに呟いた。  政務会議では彼女の強さと洞察力に目が入ってしまっていたが、孤立無援状態だった気がする。  それにしても、カイザーに会いたいだなんて彼女は本当に子供が好きなようだ。 (子供か⋯⋯)  俺は今まで好き勝手生きてきて、初めて取り返しのつかない事をしたと感じた。  今まで、人の気持ちなんて気にした事がなかった。  でも、モニカが身も心も傷ついていて傷つけたのは俺だと言うことは分かる。 「俺も一緒に行くよ、モニカ」 「分かりました、陛下」  モニカが明らかに俺がついてくるのを気まずく思っているのが分かった。  本当は午後も仕事が詰まっているが、今は何よりモニカだ。  気まずく思われようと、俺が傷つけた彼女の傷を少しでも癒せるようになりたい。 (「陛下、お忙しいのに私に会いにきてくれたのですか?」)  火傷を心配して彼女の部屋に行った時、目を輝かせながら駆け寄ってきた彼女を思い出した。  彼女は俺の前で演技などしていなかった。  俺を慕ってくれていたのに、疑って傷つけて嫌われてしまった。  人に好かれようなんてした事がない。  今初めて、モニカに好かれたいと強く思う。  どうしたら良いか分からないけれど、彼女に愛されるように変わらなければと思った。  俺が手を差し出すと、彼女がそっと手を乗せてきた。  小さくて可愛い彼女の手だ。  この手で俺に必死にしがみついてきてた時もあった。  「庭園の方から回って皇子宮に行こう。花は好きだろう」  「はい」  モニカの強張っていた表情が柔らかくなり、足取りが軽くなる。  絶世の美女と言われる彼女だが、今は尻尾を振って散歩を楽しみにしている犬みたいに見える。 (可愛い過ぎだろ⋯⋯) 「政務会議の時は狂犬のようだったのに⋯⋯」  俺は思わず漏れた呟きが失言だと気がついた。  俺は彼女を雌犬呼ばわりして傷つけたこともあったからだ。 (というか⋯⋯犬呼ばわりが失礼過ぎる、早く謝らないと!)  「ふふっ、流石陛下ですね。私の正体が犬だって、もう気がついたんですか?」  モニカが楽しそうに笑っているが、何と返すのが正解なのか分からない。 (もう、思いのまま喋ってしまえ!) 「俺はモニカの犬っぽいところも好きなんだ⋯⋯」  モニカを口説きたいのに、変なことを言ってしまった。  でも、前に唇を舐められた時も人懐こい犬っぽい感じで可愛かった。 「嬉しいです。陛下⋯⋯」  頬を染めて彼女が嬉しそうにしている。  俺はそのあまりの可愛さと、犬と呼ばれて嬉しい彼女の感覚の理解できなさに迷宮に入り込んだような気になった。
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