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28.モモと呼んでください。
陛下が犬のモモだった私を肯定してくれたようで嬉しくなった。
「本当にお花が綺麗てすね。紫陽花、桔梗、ブーゲンビリアにサルビア⋯⋯陛下はどのお花が好きですか?」
「俺が好きなのはモニカだ。君は本当に花が好きなんだな」
どの花が好きか聞いたのに、私が好きだと返してくる陛下ははなに興味がなさそうだ。
花が好きになったのはルイのお母さんがきっかけだ。
私を捨てた方だけれど、ルイの事を心から愛してたのが犬の私から見てもわかった。
悪いおじさんに噛みついた私をルイの安全の為にも遠ざけなければいけないと思ったのだろう。
「陛下⋯⋯ミレーゼ子爵だけでなく、スラーデン伯爵の尻尾を掴まねばなりません。武器の横流しに関しても絡んでるかと思います。伯爵に接触してみようと思います⋯⋯」
「ダメだ⋯⋯他の男に近づかないでくれ。スラーデン伯爵については俺が探るから」
陛下にまだ信用されてない気がした。
私は彼がずっと一緒にいたいと言った以上、主人となる彼に尽くそうと思っていた。
「分かりました⋯⋯あっ! カイザー! お庭にいたのですね」
私はカイザーがいたので駆け寄った。
「兄上、義姉上お2人揃ってどうしたのですか?」
「あなたに会いにきたのですよ」
私はカイザーに駆け寄り抱きしめた。
カイザーも私をギュッと抱きしめ返してくる。
実は私と彼はかなり仲良くなっていて、彼を名前で呼ぶことを許されていたのだ。
「義姉上は実は寂しがり屋ですよね」
5歳の子から言われた言葉にドキッとするが本質をつかれている気がする。
「そうですよ。だから、もっと私の相手をしてくださいね」
ふわふわと風に靡くカイザーの髪を撫でる。
このような事も人間になったからできることだ。
「モニカ、俺のことも名前で呼んで欲しいな」
「アレク、じゃあ、これから私は陛下をアレクと呼びますね」
私の言葉に陛下は驚いている。
それでも、私はこのチャンスを逃したくなかった。
今、貴族たちが寵愛を得ていない皇妃など価値がないと私を軽んじている。
陛下と親密であることを見せることで、帝国での私の地位と発言力は高まる。
先の政務会議での不快なやり取りをしないで済むなら好都合だ。
「俺も、モモと呼ぼうかな」
「嬉しいです。モモと呼んでください」
モモと呼ばれると、自分のことを冷静に顧みれた。
今、アレクは明らかに私に歩み寄ろうとしてくれる。
彼の気持ちが一時的なものだとしても、私は彼に尽くすべきだ。
それから、3人で庭園で散歩をして楽しい時を過ごした。
♢♢♢
入浴を済ませ部屋で、今後の対策について考えていた。
父はおそらく新たな刺客を送ってくるだろう。
私が便りの1通もよこさない事に対して、不満に思っているはずだ。
ノックの音がして、返事をするとアレクが部屋に入ってきた。
「アレク、何かあったのですか?」
「いや、少しでもモモと一緒にいたくて⋯⋯って髪の毛びしょびしょじゃないか。床が水浸しだぞ」
確かに髪の毛はびしょびしょだが、どうせいずれ乾く。
床に水滴は落ちているが、水浸しというほどじゃない。
普段は丁寧にルミナにタオルで挟んで水滴をとってもらっているが、自分でそのような面倒なことはしたくない。
私は思いっきり頭を振って、水滴を飛ばした。
「な、何するんだ! 本当に犬みたいだな」
別にアレクを攻撃しようとした訳ではないが、水滴が当たったアレクは攻撃されたと思ったようだ。
アレクが呼び鈴を鳴らして、メイドにタオルを持って来させた。
私を椅子に座らせて、丁寧にタオルで髪の毛を挟んでくる。
「ありがとうございます。でも、朝までには勝手に乾くから何もしなくても大丈夫だと思いますよ」
「大丈夫じゃない、風邪引くぞ。それにネグリジェーも濡れてるじゃないか⋯⋯」
確かに白い薄手のネグリジェーは胸の上あたりまでびしょびしょに濡れて透けている。
「この傷⋯⋯そうだ、あの時もモモは俺のことを庇ってくれたんだよな」
「背中の傷ですか? 責任なんて感じないでください。別にどうってことない傷です」
私の言葉を無視するようにアレクが私のネグリジェーを脱がそうとしてくる。
「やめてください。変態ですか?」
「濡れたままじゃ、風邪ひくだろう。モモの為に何かしたいと思っているだけだ。もう、君の嫌がることは絶対しないと誓うよ」
アレクの声が震えていて、私は彼にされるがままに新しい寝巻きに着替えさせられた。
というより、異様に体がだるい。
母に鍛えてもらったこともあり、体は丈夫だと思ったのに可笑しい。
「モモ、震えている⋯⋯」
そう言ったアレクの声の方が震えている気がした。
彼が自分の着ていたカーキー色のガウンを着せてくれる。
彼の温もりと爽やかな香りを感じてホッとした。
ベッドに寝かしつけられ、隣にアレクが寝っ転がり抱きしめられる。
「あの⋯⋯熱があるかもしれないので、一緒にいない方が良いと思うのですが」
アレクは私の言葉に呼び鈴を鳴らして、メイドに皇宮医を呼ぶように伝えていた。
頭がボーッとして上手く働かない。
髪の毛をちゃんと乾かさないだけで、風邪をひいたりするものなのだろうか。
「皇妃殿下、失礼致します」
皇宮医のが来て私の体を診ている。
隣でアレクが心配そうに私を見つめているのが分かった。
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