13 惑い

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13 惑い

 サムとノアが組織犯罪課へ接触したのは、少し日をまたいでのことだった。デッカード部隊がこの課に協力を仰いだことは前例が無く、アンドロイドとジョンソン・ファミリーの関係を洗うことについては、慎重な協議がなされたからだ。  ボブ・モレッツは、マシューの言った通り明るくひょうきんそうな男だったが、事件の詳細を聞くなり目つきが変わる。 「ふうん。あのファミリーが資金提供をしていた疑い、か」 「はい。しかし僕たちには、基礎知識が少ない。今のファミリーの構成等を、詳しく教えて頂きたいのですが」  ボブはパソコンを操作しながら話し出す。 「ここ、ネオネーストには、いくつかのマフィアが存在する。ジョンソン・ファミリー以外だと、ロドリゲス、ハリスなんかが有名だな」  サムとノアは頷く。 「現在のドンは、マクシミリアン・ジョンソン。先代のレオナルド・ジョンソンは、心臓麻痺で死亡した。まあ、歳だったからな、事件性はおそらく無い」  レオナルドの死亡の時期は、ダイナの失踪と重なる。ボブは続ける。 「ファミリーっていうくらいだ。基本的には、幹部は血族で構成されている。マクシミリアンの長男のデニス、次男のヨハンだな。これがツートップだ。レオナルドの葬儀の時の写真があるんだが、見るか?」 「ええ、お願いします」  パソコン上に、喪服を着た人々の画像が映し出される。 「見るからに一番偉そうな、鷲鼻の男がマクシミリアン。隣に立つのが、左からデニス、ヨハンだな」  サムは画像をくまなく見渡す。まず無いだろうが、アリスが葬列に加わっている可能性がないかと思ったのだ。しかし、ノアは別の所を見ていた。 「なあ、ボブ。この、ショートヘアーの女は誰だ?」 「ん?こいつか。ちょっと離れた位置にいるからな。血族じゃあないだろう。デニスとヨハンの娘でも無さそうだし。悪い、こっちじゃ掴んでいないよ」 「分かった……ありがとう」  ノアの様子がおかしい。サムは今まで、ノアがこんなに顔を強張らせる場面を見たことがない。だが、ボブの前でそれを指摘するわけにもいかない。彼らはボブの説明を黙って聞き続ける。 「お前さんたちの言うことが確かなら、資金提供があったのはレオナルドの代、ってことになるな。けど、奴がアンドロイドを所持していたか、ということまでは調べられていない。すまんな」 「いえ、ありがとうございます」 「一応ほら、資料はまとめておいたんだ。持って行けよ」  ボブから資料を受け取り、二人は退出する。 「ノア、どうしたんですか?顔色が悪いですよ」  デスクに戻る廊下の途中で、サムが問いかける。 「タバコ」  ノアはそれだけ言うと、早足で喫煙室に入って行く。サムはその後を慌ててついていく。 「なあサム。ジョンソン・ファミリーを追うのはやめにしないか?多分、間違ってるよ」  ノアの言葉にサムは驚く。 「でも、レオナルドの死とダイナの失踪には何かありそうですよ?」 「そんなもん、たまたまだろう」  違う、そうじゃない。サムは、ノアが本当にたまたまだと思っていないことを見抜いている。長い付き合いだ、それくらいのことは朝飯前である。  居心地の悪い雰囲気が、タバコの煙と共に充満する。サムは、思い切って核心を突く。 「もしかして、写真の女性が何か?」  ノアは答えない。タバコをかき消すと、喫煙室を出て行く。  デスクに戻ったノアは、荷物を置くなり、ボスの元へ向かう。 「すみません、急用で。早退させてください」  サムは耳を疑った。 「別に構わんが……体の具合でも悪いのか?」 「いえ、大丈夫です」  そのままノアはサムの横を素通りし、帰って行ってしまった。  その様子を、アレックスとマシューも見ていた。アレックスが小声で囁く。 「ねえサム、ノアの奴、どうしたの?あんたら喧嘩でもした?」 「僕にもよく、わかりません」  サムはアレックスとマシューに、事の顛末を話す。 「ねえ、その写真見せてよ」  アレックスがそう言うので、サムはボブから貰った資料から葬儀の写真を取り出す。それを見たアレックスの顔が、一気に曇りだす。 「これはちょっと、ここでは言えない。サム、マシュー、今夜空いてる?」 「ええ、僕は」 「俺もだ」 「じゃ、ちょっと飲みに行こう。それから話すから」  ここでは言えない、とは、一体どんな事なのだろう。不安を抱えながら、サムは仕事に打ち込んだ。
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