おなかが空いた(1)

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おなかが空いた(1)

 ついでにいろいろ掃除をして。  りゅーくんの目の前で寝転んだのが良かったのか、どうやら警戒心はなくなったらしい。  今ではうつ伏せで寝転んだ俺の背中に乗ってくる。  ……重いんだが。  無理に退かして炎を吐かれたらおしまいだ。 「はあ、トイレってどうしたらいいんだ」  りゅーくんの尿は多くないので大便をする場所を用意すれば大丈夫です。段ボールと新聞を用意して、……(以下略)すれば完成です。注意すべきはトイレを認識させる必要があることです。私の組織ではトイレを作ったら人間がそのトイレで実際に大便をする方法を採用していました。ただりゅーくんは臭いのが苦手なので一か月単位で食事管理を行った人物が段ボールと新聞で作ったトイレですることでトイレを認識させていました。  ただこの方法は手間がかかることや大便要員の心理的負担が大きいことから、大便を認識させる音楽を採用しました。この音楽を流せばりゅーくんはトイレの場所でちゃんとしてくれます。 「それは良かった。じゃあトイレ作るか。トイレ要員は嫌すぎるだろ。……待て。そんな大きい組織があるのに俺に預ける必要があるのか? まるで預けることが目的みたいな。考えすぎか」  大きめの段ボールと両親がもう読み終えているだろう新聞を用意した。  取扱書の写真を真似て作っていく。  すぐに完成した。  これでよし! 「どうした?」  りゅーくんは翼をばたばたと動かして飛んだり着地したりを繰り返している。  まるでスクワットでもしているような上下運動だ。  元気がなさそうにも見える。  仕方ない、取扱書で調べるしかない。  りゅーくんの行動パターン集!  そのよん! りゅーくんが翼を広げてその場でジャンプを繰り返しているときは、おなかが空いたのサインです! 「たぶんこれだよな。あとは取扱書で何を食べられるか見るだけだな」  ない。  項目に食べられるリストや口に入れると危険なものリストがあると考えていたが全く書いていなかった。 「そりゃあお腹空いたよな。仕方ない、せめて犬や猫が食べられないものを調べるしかない」  スマホを開いて。  検索エンジンを立ち上げてみる。  くそ、取扱書には書いてないんだよ、相当大事だろ。 「メールを送ってみるか」  しかし既読がつくことはない。  忙しいのかもしれないが、大事なペットらしいりゅーくんに何が起きるか分からないはずだ。何かあれば俺が連絡する、その連絡を受け取れない状況というのはやはり不自然だ。  姉さんは何をしてるんだ?  いや、それよりもなんとかりゅーくんの空腹を抑えられるものを見つけないと。 『キャットフードない 代用』  アレルギーを起こししにくいもの、たんぱく質があるものか。  食塩の過剰摂取に注意するのか。  焼き魚とか。  生肉でなければ鶏肉、豚肉、牛肉がいいのか。 『ドッグフードない 代用』  アレルギー問題は同じか。  肉、魚、これも火を通して同じ感じで。  骨付き肉は駄目。確かにイメージとしては骨付きだな。  ……ドラゴンならいけそうな気はするが、歯や顎に悪影響があるみたいだし避けるか。  タコやイカ、貝類は避ける。  玉ねぎやネギは避ける。ドラゴンでもやめた方が賢明だな。 「よし、焼き肉だ。りゅーくん待ってろ!」  それから冷蔵庫を確認する。  豚肉も牛肉も鶏肉もあった。  フライパンを取り出して同時に焼く。  このとき肉は包丁で小さめのサイズに切った。  油を引いたり調味料をかけたりはしない。 「できたけど、表面の脂は軽く拭いて冷ました方がいいよな? 口から炎出してたけど一応」  キッチンペーパーを皿の上に広げる。 「くーん。きゅーん」  りゅーくんはキッチンまでやって来た。  余程お腹が空いてたのだろう。 「待て待て。もう少し冷めてからな。熱くても食べられるかもだが」  鶏肉を食べてみる。  肉質もよくてこれがなかなか美味しい。  ドラゴンにとってはどうだろうか?  そもそも食べていいのか?  美味しいって思うだろうか? 「きゅーん」 「あー、分かった。一番安全そうな鶏肉からな」  床に皿を置いてその上に鶏肉を乗せる。  りゅーくんは首を傾げた。  飛んだり着地したりを繰り返したままだ。  警戒しているのだろうか?  目の前で一口食べてみる。  りゅーくんはぺろっと舌を出すと鶏肉を舐めた。  そして大きな歯を見せて一気に飲み込んでいく。 「いけたのか?」  次に豚肉。  りゅーくんは匂いを嗅いだ。  どうやら警戒はしてないらしい。  これも飲み込むように食べた。  もしかしてたくさん食べるのでは?  まだお腹が空いているのか翼を広げたままだ。 「牛肉も大丈夫だよな、りゅーくん」 「くーん」 「大丈夫ってことか? 無理だったら遠慮なく言うんだぞ! 気合とか覚悟とか根性の問題じゃないからな」 「きゅーん」 「よし、分かった」  りゅーくんは牛肉に頬ずりをした。  それから噛みつくように小さく切ると次々と平らげていく。 「きゅーん」  相変わらず飛んだり着地したりを繰り返している。 「ごめん、ドラゴンだもんな。足りないか」  足元に擦り寄ってきたりゅーくんを撫でる。  ごつごつしているわりには温かい。 「ドッと疲れたな。って寝てるのか。お腹空いたら寝て誤魔化す感じなのか?」  寝ているりゅーくんをソファに移した。  夕食はもっと買おう。  ようやく自分の食事をしようとしたときだった。  固定電話がなる。 『母さん今日帰れないわ。忙しくて』  五分後。 『父さん泊まり込みで残業だ』  ……は?  都合が良すぎる。  けどもりゅーくんは懐いてくれたらしいし、知らない人が増えるよりはましか。  深く考えるのはやめた。
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