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お迎え
インターホンが鳴る。
ようやく姉が帰ってきたらしい。
「おかえりなさい。って姉さん、身体ボロボロ」
「りゅーくんを狙う悪の組織と闘ってきたわ。お風呂入れてもらおうかしら。あとバスタオルと着替えも準備して」
姉は体中に切り傷を負っていた。腫れあがっている箇所も少なくない。
無事で本当に良かった。
「お風呂、絶対痛くなるでしょ。すごい怪我だし」
「そうね。でもそこまでが闘いって思うから」
「そうなのかよ。よく分からないな」
「あれ。りゅーくんが懐いてる?」
りゅーくんは俺の足元に近づいてきて舌を出して舐めてくる。
甘えてきているのだろう。
「疲れたでしょ? よく分かったわね」
「疲れたけど、何がよく分かったんだ?」
「りゅーくんのご飯。自分のことを好いてくれる善人の精気。それがりゅーくんの食事だって」
「いや知らなかったが? 先に教えてくれよ、この疲れってりゅーくんに食われてたからか」
「食べて寝れば精気は回復するわ。取扱書に食事を書かなかったのは、テストをしたかったから。この短時間でドラゴンを手懐けるあなたなら問題ないわ。私と来なさい」
「は?」
「一緒に行くわよ、異世界へ。最強のモンスター使いになって、一緒に魔王を討伐しよう?」
姉は手を差し出した。
得意の表情というか、嬉しそうっていうか。
滅茶苦茶すぎる!
「絶対に嫌なんだが? 異世界にどうやって行くんだよ。そもそも」
「転移魔法陣に決まってるでしょ。アニメとか見たことないの? いつまでも子どもなんだから。さあ!」
「なんで俺なんだよ」
「りゅーくんに懐かれたから。あ、スマホに送っておいたから」
「何を?」
「向こうであなたが手懐ける必要がある百体のモンスターの説明書」
「今度は食事まで書いてあるのか?」
「みんなお腹が空いたらあなたの精気を勝手に食べるわよ。心配することなんて一つもないんだから」
……なにが大丈夫なんだ。絶対行かない。
姉は俺の腕を掴んで強く引いてくる。
家から連れ出して異世界へ行かせようとしているらしい。
「嫌だが?」
「どうしてよ、男のロマンでしょ? ほら」
「異世界ってなんで? 魔王を倒すだって?」
「わくわくしない?」
「しない」
「あら。でももう遅いわ」
姉は笑う。
「はあ? なんだ、これ!」
床が青白く光り出す。
眩しい光が強制的に瞼を閉じさせる。
「はい、転移魔法陣発動!」
こうして、俺は異世界へ。
最強のモンスター使いとなって魔王を倒す物語が始まったのだ。
……嘘だと言ってくれよ。
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