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第3章・安住の地で 2ー④
アイシャのセンサーが、その場所を知らせ、サラは無事に保護された。
その時には既に、フェリドは指名手配されていた。
ファイザルは、怒りに我を失っていた。
慈しむように大切にしていたアイシャを、奪った男が許せない。
もしもアイシャに触れようものなら、生きているのも耐え難くなるような拷問を加えてやる。
だがアイシャは、もしかしたらまだ番の相手を想っているのではと、ファイザルの心に疑惑が過る。
犬族は、番以外を愛さない純粋な一族だ。
そのほとんどが、時を同じくして死を迎える程に、想いを貫き通す一族だった。
そんな犬族のアイシャが、薬で騙すようにして奪ってしまった自分を憎まずにいられるだろうか。
『ファイザルが父親で良かったと思ってるよ』
そう言ったアイシャの言葉には、偽りはなかったと思う。
そんな酷い始まりだった関係を、アイシャは受け入れてくれた。
アイシャを誰にも渡したくはない。
アイシャは、自分だけのものだ。
他の男に渡しはしない。
自分は、全身全霊をかけてアイシャを愛している。
ファイザルは初めて感じたその言葉を、心から湧き出でるようにして噛みしめた。
何故、今までそんな事にも気が付かなかったのか。
両親にすら愛情を感じた事のなかったファイザルは、そんな心情とは無縁の人生だった。
アイシャのキスの一つから、仕草から、言葉から、ファイザルの愛情は徐々に育てられて、今は溢れんばかりに膨れ上がっていた。
アイシャのいない人生など考えられない。
必ず、この手に取り戻してみせる。
ファイザルは、それを固く胸に誓った。
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