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第3章・安住の地で 2ー①
その時、サイレンの音がけたたましく鳴り響いた。
ファイザルは、飛び上がらせるようにして離した。
アイシャに急いでバスローブを着せてから、自分も腰紐を締める。
室内用の電話を急ぎ、取った。
「何事だ?!」
『何者か、侵入者が出て行った形跡があります!何か盗まれていないかご確認をお願いします!』
「出て行った?何故、侵入した時に分からない?」
「それが理由が分からなくて……誰かが手引きしたとしか考えられません」
アイシャは嫌な予感がして、続きの部屋へと飛んで行った。
そこは簡単な仕切りこそあるものの、扉などで完全に塞がれてはいないサラの部屋だった。
「ファイザルっ!サラが……サラがいないっ!」
ファイザルはアイシャの元に駆け寄った。
真っ青な顔をしたアイシャの目線の先には、ベビーベッドで寝ている筈のサラの姿がなかった。
「あ……、あ……、いやだ……」
アイシャは、体をグラリと傾けた。
「アイシャっ!」
ファイザルはそれをガッチリと支えると、アイシャの体を抱き締めた。
今度、鳴った呼び出し音は室内電話のものではなく、外線用の電話だった。
アイシャは、無意識の内にその電話に飛び付いた。
本能が『外敵』を察知していた。
『アイシャ……?俺、分かる?』
電話先のその甘く優しい声の主は、アイシャの番であるフェリドのものだった。
「フェリド?!……何で、お前っ……」
『アイシャの赤ちゃん、預かってるよ。凄く可愛いね、この子。……もし、俺達の子供として産まれて来てくれたら、銀髪だった筈なのに』
フェリドの穏和な口調の中に狂気のようなものを感じて、アイシャは震え上がった。
「サラをっ……、サラを返してくれ!お前が恨むべきは俺であって、サラは関係ないだろう?」
『そうだね。俺も、こんな可愛い子を殺したくはない。……そしたらアイシャ、君が来てくれる?』
「……どこに行けば良いんだ。俺が行くんだから、サラには手出しするなっ!」
『場所は誰にも言わずに、一人で来るんだよ?アイシャ。……分かってるよね?』
アイシャは震える手で、受話器を置いた。
その項垂れる体を、ファイザルは背中から抱き寄せた。
「アイシャ!お前一人を行かせはしない!」
「ファイザル……。フェリドの目的は俺なんだ。俺が行かなきゃ、サラが殺される」
「……アイシャっ……」
「大丈夫だよ。俺の首輪には、センサーがついてるんだろ?バレないように、少し距離を置いて付いて来れば良い」
アイシャは、もう既にネックレスのように気にもとめなくなった首輪に、そっと触れた。
それはファイザルの指紋でしか、鍵を開けられない特殊な首輪だった。
ファイザルが何と言って引き留めようとしても、アイシャは聞く耳を持たなかった。
外は霧のような雨が降っていた。
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