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第3章・安住の地で 2ー③
以前の妊娠中の時とは違い、獣人としての二人はその悪路も易々と駆けて行く。
いくつかの村を通り過ぎ、やがて獣人すらも住まない未開の地へと足を踏み入れていた。
獣人達の間では、地の果ては死の世界が広がっており、決して近付いてはならないと言い伝えられていた。
行き着いた先に、切り立った崖が現れた。
その崖の下には更に密林が地平線まで広がっていた。
「凄いな。見えないところまで、ずっと続いてる。……行けるところまで行くよ、アイシャ。最奥に、俺達の家を作るんだ」
「フェリド……。少し、休もう。ずっと走りっぱなしだったんだ。休憩した方が良い」
「……そうだね。あの下に泉があるから、あそこで休もう」
崖は絶壁だったので、大回りして泉のある場所へ向かった。
あの後、サラはちゃんと保護されただろうか。
センサーのついた首輪を置いてきたから、ファイザルがそれを見つけてくれる筈だ。
サラと一緒に帰りたかった。
三人の優しい時間を、何よりも愛していた。
だが、その選択出来なかった。
サラから離れた後に、アイシャだけ逃げ出しても、フェリドはまたサラを狙うかも知れない。
何より番のフェリド以外の男を愛してしまった負い目が、アイシャを罪悪感でがんじがらめにしていた。
本来なら、他のオスによって『メス』された瞬間に、自らの命を絶つべきだった。
だが、アイシャが気が付いた時には、自らの腹にサラがいて、その命の灯火を消す事は出来なかった。
あれ程に、乱暴に強姦し続けたファイザルにも、途中から優しく包むようにして大切にされ、アイシャの頑なな心を溶かされてしまい。
愛情に疎く、不器用なあの黒い獣人を、愛さずにはいられなかった。
フェリドへの裏切りは、死んで詫びても足りない。
だから、残りの命はフェリドに捧げても良いと思った。
だが、そう決心してもアイシャの心は、変わらなかった。
ファイザルを愛している。
ファイザルしか、愛せない。
この気持ちを忘れられたなら、どれだけ楽になるだろう。
この先、フェリドに抱かれて、フェリドの子供を産む。
そんな事に、耐えられるだろうか。
アイシャには想像も出来なかった。
一方、フェリドは、言葉少ないアイシャを食い入るような目で見つめていた。
少年の体だったアイシャは、子供を産んでから青い果実が熟れて芳醇な薫りを発するかのように、色艶やかになっていた。
熟した色香が、フェリドの雄としての本能を誘う。
アイシャの方が先に発情期を迎えるまでは、アイシャに抱かれる想像は出来ても、アイシャを抱く想像は出来なかった。
だが、今の蜜を滴らせるような妖艶ですらあるアイシャを見ていると、己のメスとしての発情期はもう来なくても良いとすら思えてしまう。
早くアイシャを自分のものにしてしまいたい。
アイシャの発情期が永遠に終わらなければ良いのにと、フェリドは己が欲望を滾らせた。
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