第3章・安住の地で 3ー①

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第3章・安住の地で 3ー①

「特殊部隊の派遣を要請する。至急、こちらに寄越せ。あの位置からは北に向かう事は有り得ない。日を跨がずに行くぞ」 ファイザルは最後の連絡を終えて、城をあとにする準備をした。 部屋を出ると、廊下に妹のレイラが立っていた。 「お兄様。飼い犬に手を噛まれるとは、この事ですわね。昔の男と密通していたなんて」 「密通ではない。脅迫された上での誘拐だ」 「お認めになりたくないお気持ちも察しますけれど、所詮、野良犬だっただけの事ですわ。育ちの悪さが出ましたわね」 ファイザルがレイラを振り切って行こうとすると、引き留めるようにしてその腕を取られた。 「もう、お止めになったら?お兄様。……その研究は、私とお兄様で試したらよろしいでしょう?私達の間でしたら、生粋の『神の申し子』が産まれましてよ?」 「レイラ。お前、バレてないとでも思っているのか?」 「何がですの?」 「スルターナを焚き付けて、サラのカプセルを破壊させたのも、アイシャの番をこの城に引き入れたのも、お前だろう?」 ファイザルの言葉で、レイラは見るも明らかに動揺した。 「な、何を仰ってらっしゃるのかしら?そんな事、私に出来る筈が……」 「お前が、私の研究員をたらし込んで、乱行三昧なのは知っている。研究室の扉の鍵を開けさせて、その体を使って懐柔していたつもりかも知れんが、欲に溺れたか」 「わっ、私はお兄様以外に抱かれた事はございません!あの、薄汚い犬とは違いますわっ!」 ファイザルは、一旦部屋へ戻り、自らの机の引き出しから写真を取り出して、レイラの前にばら蒔いた。 そこには、数人の王族と淫行に耽るレイラの浅ましい姿が写っていた。 「残念だったな。お前に付いていた男も全て白状した。今は、この実験には皆が全てを賭けている」 「何かの間違いですっ!これは、私ではありませんわ!私は……」 「お前、体質が変わって鼻が利かなくなったか?……自分が妊娠しているのも分からないのか?」 「な、何ですって?」 「お前は、妊娠している。良かったな。プライドの高いお前の事だ。王族のオスを選んで交わっていただろう?子供は、純粋な王族の子供だ。……私の実験もこれでパーフェクトの成果を得られた」 「で、では、それはお兄様の子で……」 「そんな訳がないだろう。お前、私と何ヵ月、交尾していないと思っているんだ?計算が合わん」 レイラは、ガタガタと体を震わせた。 王族同士で、妊娠する事はほとんどなくなっていた。 だからこそ性行為に溺れ、快楽を愉しみ、オス達も利用してやったつもりだった。 「お前と遊んだ研究員には、行為の前に私の薬を挿入するように命じておいた。どこで誰の精子と受精したのか、楽しみにしておけ」 「お兄様っ!それならば何故、お兄様が私に薬を使っては下さいませんでしたのっ!」 レイラの背後には、いつの間にか研究員の者がついて、その体を保護していた。 レイラは、これから初の『王族同士の受精卵を持つ母体』として監視される。 「レイラ。この度の私の研究は『王族に妊娠させる事』と、『王族に新しい血を導入する事』だ。私とお前が受精すれば、より血が濃くなるだけの『逆行』にしかならない。そんな交尾は、私の研究には何の役にも立たんだろう」 ファイザルは踵を返して、その場をあとにした。 レイラには、産むだけの実験体になる未来しかない。 これからは、心臓の鼓動までも管理される『モルモット』のような生活が待っていた。
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