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第1章・絶望の果てに 1ー①
首都アルザーク。
一握りの権力者たる王族が支配する、唯一の都である中央部は、豪華絢爛な城が建ち並ぶ都市だった。
その建築物の全ては、法によって統制され、美観を保つ為に全て白亜の城に指定されていた。
王族の個人の城から、貴族の住む集合住宅や、犬族が住む犬小屋までも、その統一された美を損なう事は許されなかった。
森で原始的な生活をする犬族とは真逆に、王族の統治するこのアルザークは、様々な物資に溢れ、文化や最新技術の全てが集結していた。
だが、そのアルザークの政権を握る王族の減少により、獣人逹は危機感を募らせていた。
ある時期から、王族に限って卵子の受精、着床が激減し始めたのだ。
その理由は未だに解明されておらず、それは研究者にとって一刻の猶予もない急務となった。
以前の王族は、その強い性欲のままに繁殖し続けていたが、現在は最盛期の10分の1の出産率に低下している。
生物学の権威でもあるファイザルは、長年、その研究に身を投じていた。
ヒト型の王族として、神の申し子と崇められたファイザルですら、妻のスルターナや、妹のレイラ以外にも、多くの女を囲うのを許されていたが、その誰もファイザルの子を身籠る事がなかった。
精通を迎えて以降、囲う女逹の発情期には必ず交尾していたが、誰一人として妊娠しない。
ファイザルは、その艶やかな長い黒髪に、豊かな毛並みの尾、白皙の美貌、鍛え上げられた肉体、類い稀なる頭脳で、女逹の羨望の的だった。
誰もがファイザルの子供が欲しいと、群がり、体内・体外受精までもしたいと申し出る者が後を絶たなかった。
科学者でもあったファイザルは、自らの体を使って獣人体の研究をし続けた。
自身の精子には、何の異常もない。
たとえ卵子が上手く受精しても、着床しないのである。
貴族逹や犬族逹の出産率には、何ら変化もない。
王族だけが、衰退の一途を辿っていた。
ファイザルの部屋の扉に、ノックする音が響いた。
「入れ」
「失礼致します。アイシャをお連れしました」
数人の貴族逹が、縛るアイシャを差し出し、即座に部屋を退出した。
手足を括られ、猿ぐつわをされたアイシャは、体こそ横たわっていたものの、瞳は怒りに燃え盛っている。
その尾は、興奮も露に毛を逆立たせ、ぶるぶると震わせていた。
ファイザルは、美しくも冷酷な眼差しでアイシャを見下した。
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