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第3章・安住の地で 3ー③
発情期のアイシャからは、オスを引き寄せるフェロモンが分泌されていたのか、フェリドは恍惚となって吸い寄せられる。
「いやぁぁぁぁあっ!」
このままでは、自分はフェリドに抱かれてしまう。
アイシャは絶望した。
ファイザル以外の男に触れられたくない。
全身を逆毛立てて暴れて、それを拒んだ。
「嫌だぁっ!」
アイシャはフェリドの腕から抜け出し、裸のまま、地面を駆けていた。
その時、地鳴りのような音が北の方角から聞こえ、何機もの飛行船が光を放ち、こちらに向かっているのが見えた。
ファイザルだと、直感した。
だが何故、この場所が分かったのか。
アイシャはフェリドの手を払い、なりふり構わず、その方向へと走った。
「アイシャっ!待って!また、俺を捨てるのかっ!」
それはフェリドの懇願のような叫びだった。
だが、アイシャは細胞の次元から、ファイザル以外のオスを拒絶した。
ファイザルの子供以外は、産みたくない。
子宮が、それ以外の精子を受け付けようとはしなかった。
飛行船のハッチが開き、中から数人の貴族の軍人達が出て来る。
その中に、長身の男を見つけた。
アイシャの視界がぼやけているのは、涙のせいだとは分からなかった。
駆けて、駆けて。
ひたすらに、それを目指した。
迷う事なく、その腕の中に飛び込む。
「ファイザルっ!ファイザルっ!」
「アイシャ!」
ファイザルはアイシャを上向かせると、思いの丈を込めた激しいキスをした。
そして、その頭を抱えるようにして、耳を塞ぐ。
アイシャの背後から、空気が破裂したような音が長い間続いた。
地面から骨を通してその波動を感じ、背後には銃弾の嵐が降り注ぐ。
ファイザルは、それを見せまいとアイシャの口付けを解く事はしなかった。
辺りに硝煙の匂いが充満していたが、アイシャは振り返らなかった。
ただ、止めどない涙を流し続けた。
その涙の意味は、自分でも分からなかった。
罪悪感で命を絶つ事が出来るのであれば、今すぐにこの命を捧げたかった。
裏切ったのは自分の方だったのに。
愛を貫けなかったのは自分の方だったのに。
許して欲しい。
受け入れられなかった事を。
朦朧とするアイシャの肩に、ファイザルは自らの上着を脱いで、かけてやった。
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