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第1章・絶望の果てに 2ー①
ファイザルは、そのままアイシャをバスルームへ連れて行き、服を脱がせようとした。
自分で入れるとその手を頑なに拒絶して、アイシャは1人で風呂に入った。
シャワーを浴びながら、自らの下腹を撫でた。
ここにファイザルの子供がいる。
生物学を専門とするファイザルが嘘をついたとは思えないが、未だに信じられない。
大体、生命体として別の生物である、王族と犬族がどうして受精出来るのか。
ファイザルの元で召し使いとして働いている間に、薬を盛られていたとしても記憶がない。
アイシャがここを逃げ出して、もしこの子を1人でひっそりと育てるとしたら、と想像して、首を横に振った。
恐らくどれだけ逃げても、ファイザルは追って来る。
万が一、その魔の手から逃れる事が出来たとしても、経済的にも現実的にもアイシャ一人で育てて行くのは不可能だ。
この状況から逃れるには、この子を流産するか、自分の命を絶つしかない。
その勇気はアイシャにはなかった。
父親は望む相手ではなかったとしても、腹の子に罪はない。
不貞の大罪は、自分が背負うべきものであって、子供に擦り付けるものではない。
犬族特有の深い愛情が、腹の子の命を絶つのを躊躇わせた。
ファイザルに頼るしか術はない。
この子を産んで、その幸せを確認出来たなら、その時はフェリドへの愛を誓って自ら命を絶とう。
アイシャの生きる道は、それしかなかった。
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