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第1章・絶望の果てに 2ー②
夕食の席には、ファイザルの妻のスルターナを筆頭に、7人の女逹が座っていた。
どの女も王族であるが故に、ファイザルと変わらぬ程に大柄であり、アイシャより頭一つは背が高い。
妻のスルターナは、ファイザルが精通してすぐの女だったので、ファイザルよりも5つ年上の黒い獣人だった。
長い獣の鼻を高く持ち上げ、他の女達よりも自分の方が上だと言わんばかりの高飛車な女だ。
他の女逹も、王族特有の黒髪に黒い尾をして、顔立ちは本能のままの獣の様相をしており、それぞれに毛並みは違っていたが、どの女も美しい獣人だった。
中に一人だけ、ファイザルと同じヒト型の王族がいた。
その女レイラは、ファイザルの実の妹であり、ファイザルと同じく黒い豊かな巻き毛をたくわえた美少女だった。
レイラはスルターナとは違った意味で、ファイザルとの子供を期待されていた。
同種の近い細胞同士の配合は、出産率も高い。
もし、ヒト型同士の交配が成功すれば、また神の申し子たるヒト型の王族が生まれる確率も上がる。
レイラの、ファイザルへの執着は並々ならぬものがあった。
それ故に、食卓を同じくするアイシャを見つめる瞳は、尋常ではない殺意すら含んだような視線だった。
「皆に紹介する。この者はアイシャという。今、私の子供を腹に宿しているので、皆で敬うように。決して、争いなど起こさぬようにな」
ファイザルの言葉に、一同が悲鳴のような声を上げる。
犬が王族の子供を身籠るという前代未聞の話を、誰も受け入れられなかった。
プライドの高いスルターナは、その場で失神するようにしてテーブルに突っ伏す。
それを他の女逹が、駆け寄って慰めた。
ファイザルの妹のレイラだけは、怒りを露に自らの尾を逆立たせた。
「どういう事ですの?お兄様!その者は犬族ですわよね?王族の子供を妊娠するなど有り得ません!あらかた、どこぞの犬と通じて、どこの者か分からぬ雄の種を宿したに違いありませんわ!」
「王族としての誇りが許さぬか、レイラ。犬族は番としか交尾はしない。アイシャには発情期を迎えてすぐに、私と交尾した。処女の赤い血も確認した。確実に私の子供を妊娠している」
「たっ、体外受精ではないのですか?何という穢らわしい事を!……お兄様はこの者に……そんな……」
「三日三晩、精子を注ぎ続けてやったぞ?あれで孕まぬ筈がない程にな」
女逹は、一同に息を飲んだ。
ファイザルは、自分達には月に1度の交配日にしか交尾をしないし、終わるとすぐにベッドから引き上げてしまう。
普通なら性欲の旺盛な王族は、毎夜、夜通し交尾に明け暮れるのは獣としての本能だ。
ファイザルが淡白なのは、科学者故の偏りからなのだと皆が思っていた。
性欲よりも、どれだけ多く受精するかが重要で、それがファイザルの研究でもあり、仕事でもある。
どの妻達も月一の、それも1度きりの交尾の為だけに、皆がファイザルの精子を取り込みたい一心で、ファイザルの訪れを待つ日々だった。
それを、この犬如きが、主たる夫の寵愛を一身に受けている。
レイラのみならず、女逹の嫉妬の炎が全てアイシャに向けられていた。
たまらず、スルターナが叫ぶようにして懇願した。
「酷うございます!ファイザル様!私達には、それ程に子種を注いではくださらないではないですか!何故、そんな薄汚れた犬などに……」
「アイシャの体は、魔物が住んでいるのかと思う程に、男を虜にさせる。……当分は、孕みそうもないお前達と交尾する気がなくなった。もう夜に、私が訪れる事を期待するな」
女逹は絶句してしまった。
アイシャは黙って聞いていたが、ファイザルのあまりに露骨な言い様に、顔から火が出そうになった。
妻達の前で赤裸々に語られる、アイシャには記憶のない情事。
あの時の自分は、そんなに乱れていたのかと。
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