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日陰となる軒下の雪は、容易には溶けてくれなかった。
「大変ですね、お手伝いしましょうか」
専用スコップで雪をかき分けていると、見ず知らずの女が声をかけてきた。ベージュのトレンチコートに、黒いスラックス。足元の革靴と腰の辺りで揺れるショルダーバッグを見れば、本気で手伝う気などないことは一目瞭然だ。
「大丈夫です」
素っ気なく一蹴したにも拘わらず、女は親しげに話し続ける。
「毎年こんなに積もるんですか? 温暖な土地から来たもので、雪景色が珍しくて……」
「あ、私もです」
「まあ、奥様も雪の降らない土地のご出身で?」
「ええ……だから、慣れなくて」
「ですよねぇ、重労働ですもん!」
「今年は特に……」
思わず会話を続けてしまったけれど……何者なのだろう、彼女は。
「ああ、想像以上に重いわ!」
スコップに乗せた雪を持ち上げようとする彼女を、私は慌てて制した。
「腰を痛めますよ。嫁いできて最初の冬に、私もやられましたから」
決して、雪かきを舐めていたわけではなかった。物珍しさと、嫁として役に立ちたいという一心だけが空回りした結果━━骨盤を痛めた私は、治療の過程で不妊症であることも分かった。
『だから、嫁にもらう前に調べろって言っただろ』
『控えめなところがいいって言ったのは、あなたじゃないの』
私を嫁に迎えた失策を互いに擦り付け合い、離縁を勧められるような言動もあったけれど━━結果的には義両親が家を離れ、夫も戻らなくなった。
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