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はっと目を覚ますと、パジャマがびっしょりと濡れていた。
ひどく悪い夢を見ていたような苦々しさが、喉の奥に貼りついていた。
ごそごそと布団から抜け出すと、もぬけの殻になった広夢のベッドが目に入る。やっぱり雪がちらつき始めたから今夜は会社に泊まる、と連絡があったのを思い出した。
雪だけではなく風も強いのか、ゴーゴーという激しい音が家全体を揺らしていた。時々パラパラと窓を打つのは、雨ではなく雪なのだろう。
数年ぶりの降雪に、予想通り町はパニックに陥った。夜になるとテレビはどこの局も災害特番に切り替わった。どこそこの町で何センチ積もったとか、電車やバスが止まったとか、転倒して病院に運ばれた人が何人だとか、スーパーに買い溜めの列が出来たとか。
あまりにもくだらないそんなニュースを見る気にはなれなくて、私はいつもより早めに床についた。変な夢を見たのもきっと、そのせいだろう。
乾いた喉に水を流し込み、再び寝室へと戻ろうとしたその時――
――ギュッ……。
聞きなれない音が、耳をついた。最初は空耳かと思ったが、そうじゃない。
――ギュッ……ギュッ……。
雪を踏む音だ。しかも足音は、家のすぐ外から聞こえてくる。
もしかして広夢が帰って来たのだろうか。鍵でも忘れて入れないでいるとか?
私は慌ててカーディガンを羽織り、玄関へと走ろうとする。ふと、視界の端でチカチカと瞬くものが目に入った。携帯電話だった。
広夢が救けを求めているのかと思いきや、知らない番号からの着信だった。しかも、固定電話だ。こんな時間に? しかし並んだ番号にどことなく見覚えがあった。緑色の通話ボタンを押し、恐る恐る耳に当ててみる。
『……俺だ』
くぐもった、低い男の声がした。
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