知らなかった

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知らなかった

 私は尊君がいなくなる前日の夜に尊君に呼び出された。 それは夕飯を食べようと思っていた時だった。 「千春〜夕飯前は携帯の電源切っておきなさいよ」 「わかった今、電話に出たら切っておくから」 それは尊君からの電話だった。 「尊君どうしたの?何かあった?」 小堂尊は言った「今、千春の家の前の公園にいる すぐ来て欲しい。渡したいものがあるんだ」 私は尊君の様子がいつもと違うそんな気がして急いで家を出て公園に向かった。  「お母さんちょっとだけ公園に行ってくる友達が変なの〜」 「千春!夕飯前よ〜こんな夜にわざわざ出て行く なんて」そう言ってお母さんは私を止めたけど私はどうしても尊君の事が心配だった。もしかしたら?尊君と会えなくなるかもしれない。そんな胸騒ぎがして私は家を出て公園まで走った。  尊君が私を呼び出したその日は雪がしんしんと降っていた。  誰が作ったのかブランコの側には雪だるまがあった。  私は「どうしたの?尊君、なんか元気ないけど?」 俯いてた尊君は私をじっと見て言った。「はい、これ俺が居なくなっても元気で逞ましく生きていってほしい。俺が居なくなっても」 尊君は私にそう言って何処かで買ったお土産なのだろうか?雪国と書いてあるキーフォルダーを私に渡した。そして尊君は私に言った「それ僕とお揃いなんだー。急な父の転勤でね明日引っ越す事になったんだよ」 私は「えー手紙書くね。住所は?」と聞くと尊君は言った「引っ越してから教えるよ」 「わかった。ラインするね電話するね。ちょっとお母さん心配するから帰るね」 尊君はにっこり笑って言った「じゃあね。元気でね」 次の日は日曜日だったので学校が休みだった。 私は尊君の携帯に何度もラインを送った。そして電話を掛けた。そう、何度も何度もそれでも私の携帯には「この電話番号は使われてない」と言うアナウンスが聞こえるだけだった。  私は近所のおばさんとお母さんの話している声を聞いて全てを理解した。  「可哀想にねー。尊君〜千春ちゃんと同じクラス なんでしょう?付き合ってたらしいし」 「お父さんのギャンブルで作った借金が高額だったらしいわ」 「それで借金取りから逃げたんじゃない?」 「毎日借金取りが来てたらしいしね」 私はお母さんに聞いた「尊君の家もしかして?」  お母さんは言った「そうよ。小堂さんの家はお父さんが作った借金で首が回らなくなって夜逃げですって。お母さんもさっき聞いたところよ。大家さんも困ってたわ。もう半年も家賃を払ってくれないって尊君は千春と同じ歳なのにね。大学受験もできそうにないわね。可哀想に」 「そうなんだ〜夜逃げなんだ〜。小さい時、夢中で雪だるま一緒に作ったり雪合戦した尊君にはもう会えないんだね」 私はお母さんにそう言った。 お母さんは黙って俯いていた。 続く
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