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十年後
十年後。。。千春はまだ結婚していなかった。
そう、千春はずっと尊の事を忘れられずにいたからだ。
それでも月日は流れて千春は二十代後半になっていた。
「千春〜この間のお見合い相手何で断ったの?
いい人だったじゃない。それに家は代々続く資産家だし千春には勿体無いくらいの人よ。
どこが駄目なの?そろそろ結婚して孫の顔を見せてよ。あなたは一人っ子なんだから。まさかと思うけど学生の頃付き合ってた小堂尊君の事をまだ思ってるなんて言わないわよね?
あの子の事はもう忘れて幸せになって頂戴。
このままじゃ私は死んでも死に切れないわよ」
私は「別に結婚だけが全てじゃないわ」
そう母親にはっきり言った。
その時だった。玄関のチャイムが鳴った。
母は「誰かしら?」そう言って玄関を開けた。
「いきなりで済みませんが、うちの息子と千春さんを会わせていただきませんか?お見合いです」
「お見合い?何でうちの娘の名前を?」
「それは昔、息子がこの近くに住んでいたからです。千春さんの事は息子からよく聞いていました。息子も千春さんに会いたがっていまして」
母は言った「でも、うちの子は昔好きだった近所に住んでいた子の事を未だに思っているようだし、お見合い相手と会っても次々と断るんですよ。昔、雪だるま作ったとか雪合戦したとか縁日に行ったとか口を開けばその子の話しばかり」
「息子も同じ事話します。縁日行ったとか雪だるま作ったとか雪合戦したとかね」
「そうですか?あの子〜尊君以外にそんな子いたかしら?昔の事だから記憶が曖昧なのかしら?」
「おばさん、曖昧じゃありませんよ。尊です」
その時、尊が玄関のドアの隅っこから顔を覗かせた。
「えっ?尊君?でも苗字が違うし、お父さんも違う?」
尊は言った「僕は大学に行って医者になりたいだから親戚の跡取りが欲しいと言っている叔父さんの家に行って養子にしてもらったんだ。
あの日〜夜逃げをした僕はトラックで寝泊まりした。そして両親が寝ている時に僅かなお金を両親のお財布から盗み電車に飛び乗った。そして叔父さんの家に行って養子にしてくださいと頼ん
だんだ。僕は養子になって叔父さんの病院を継ぎたいと前から思ってたんだよ」
「息子はどうしても千春さんじゃないと結婚したくないと申しまして」
千春はその時、玄関の側で話を聞いていた。
「尊君。。。会いたかった。ずっとどこにいるのか心配してた。電話もね。ラインもね〜たくさんしたのに通じなかったんだ〜現在使われていませんってアナウンスが流れてきたし〜。尊君、私も尊君しか考えられない」
尊の父は千春の母親に言った 「そうですか〜じゃお見合いじゃなくて結納の事を話し合わないといけませんね」
「そうですね」
千春の目からは大粒の涙が流れていた。
玄関のボードに飾ってある尊と千春の写真は
雪合戦したり雪だるまを二人で作っている時の写真だった。その写真の二人は満面な笑顔で笑っていた。
二人の大切な思い出だった。
完
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