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「美香さんを見つける方法はありますよ」
目の前の田崎という男が、断言した。
探偵事務所は、住宅街の小ぢんまりとしたオフィスビルの1階にあった。
表通りは平日にもかかわらず、人が多かった。一歩、路地に入ると、いっきに静かになる。入り組んだ細い道の角をいくつか曲がった先に、ひときわきれいな建物があった。エントランスがガラス張りになっていた。目立つ位置に、看板が出ている。
『田島探偵事務所』
ロゴはシンプルでありながら、力強さがあった。
まさかこんなところに来ることになるとは。
田崎は30代だろうか。紺のスーツで、細めのネクタイをしている。ずいぶんと若く見える。
受付の奥の個室で、美香を見つけることができると言うのだ。
警察に相談してもムダなら、探偵事務所や興信所に頼るしかないだろうと思った。スマホで周辺情報を探ると、この探偵事務所が見つかった。ずいぶん近いところにあった。
オンラインで予約をとった。電話すらしなくていい。気軽さがありがたかった。
「ただやっかいなのが、美香さんが自分の意志で居なくなったということです。証拠となるようなものを処分している可能性が高い点です」
田崎はメガネをクイッと触った。
「やはり、自ら失踪したということでしょうか」
認めたくない言葉を口に出す。
「失踪した場合、まずは意志を持って居なくなったのかが問われます。美香さんの場合、身の回りのものがなくなっているので、自ら姿を隠したと考えられます」
「そうですよね」
それはわかっていたが、認めざるをえない。
「これは悪いことではないですよ。自分の意志ではない場合、命の危険性だってある。ただ……」
田崎が神妙な顔つきになる。
「自殺はありえます」
ドキッとするワードだった。やわらかい表情を作りながら、田崎は言った。
「だから早いほうがいいんです。美香さんを見つけ出しましょう」
「お金はいくらかかっても構いません。手がかりを見つけてほしいんです」
「一つだけお願いがあります。家のなかでの捜索は続けてほしいんです。一切、モノがなくなっていると思っても、すべてをなくすのは難しいものです。あきらめずに探してください。一つでも見つかれば、それが決定打になることだってある」
「わかりました」
田崎に言われなくても、それは続ける。毎日続ける。もしかしたら手がかりがあるかもしれない。家のなかを捜索しているときだけが、希望を感じられる時間だからだ。
手付金をその場で支払った。ひとまずは1週間の稼働分。見つからなかったとしても料金は発生する。見つかったら成果報酬となる。いくらでも払い続ける覚悟だった。
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