三親等とは結婚できない

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 諒ちゃんは、びくりと肩をすくませた。まるで私に、怯えるみたいに。すぐに振り払われるかと思ったけど、諒ちゃんは固まったまま動かなかった。だから私は、頭の中で、1、2、3、と数えて3つめで唇を離した。  至近距離で目と目を見て、また3つ分の沈黙。  「……今の、キス?」  諒ちゃんが、ぎこちなく私から視線をそらしながら訊いてきた。  「違う。ただの腹いせ。」  私がそう答えると、諒ちゃんは、安心したみたいに長く息をついた。その息は、私の前髪を揺らした。  「ごめん。」  ぽつん、と、諒ちゃんが言った。  「子どもだからとか、女だからとか、そういうことが言いたかったんじゃなくて、真希だから、心配だから、よく分かんない男とセックスしないで。」  うん、と、私は頷いた。今度の諒ちゃんの台詞は、私を子ども扱いするものではなかったし、腹も立たなかった。  「明日、セックスしない。咲ちゃんに、男の子紹介しなくていいって、電話する。」  「ん。」  ふう、と、諒ちゃんはまた息をつく。よかった、と、唇だけで呟いて。  その様子を見ていたら、今度は腹いせじゃなくて、本当に諒ちゃんにキスがしたくなった。時も相手も、正しくなくても。だから私は、身を乗り出した。ほんの少し乗り出せば、私と諒ちゃんの隙間は埋まる。びくりと、諒ちゃんが肩をすくませたのはさっきと一緒。でも、一瞬の膠着の後、今度は諒ちゃんの手が、私の腰に回った。そのことに私はびっくりして、思わず身を引きそうになったけれど、うんとお腹に力を入れてそのままの体勢を保った。1、2、3、と数えて、今度も身体を離そうとすると、諒ちゃんのてのひらに後頭部を包まれた。え、と思ったと同時に、唇に軽く諒ちゃんの舌先が触れる。それは、唇を開けて迎え入れるのが自然と思わせられるくらい、優しく。  諒ちゃんは、あのころころ変わる女のひとたちと、いつもこんなふうにキスをしていたのか。  そう思うと、急に怖くなった。諒ちゃんの女の一人になるような気がして。そうしたら、私もあっさり諒ちゃんに捨てられる気がして。  諒ちゃんの胸に手をついて、本気で抵抗すると、諒ちゃんはあっさり私を離した。離してくれてよかった、という気持ちと、離さないでくれたらよかったのに、という気持ちがごっちゃになって胸に押し寄せてきた。  「……真希?」  私を呼ぶ諒ちゃんの唇が、濡れている。それを見ているのがなんだか辛くなって、伸ばした指で拭った。
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