三親等とは結婚できない

2/17
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 「やっと見つけた。」  あと10分探して見つからなかったら、警察行こうと思ってたんだぞ。  そう言いながら、諒ちゃんが土手に下りてきたのは、もう空が夕焼けに染まった頃だった。私はとっくに泣き出していて、泣きやみもすんでいて、両頬が涙の名残でじゃりじゃりしていた。  来てくれた。  私はそのとき、心底嬉しかったのだ。諒ちゃんが、私をちゃんと探し出してくれたことが。それでも意地を張って、ふい、と、顔をそむけた。諒ちゃんのことなんて、見たくない、と言うみたいに。  「真希、ごめん。」  諒ちゃんは、私の視線の先にゆっくりと歩いて入り込んできながら、軽く腰をかがめて私の顔を覗いた。  「笑ってごめん。」  諒ちゃんの声は、真面目だった。普段の軽い感じの喋りかたとは違って、大人のひとと話しているときみたいな低いトーンだった。私はなんだかほっとして、また泣き出しそうになった。諒ちゃんは、私の言うことを笑い飛ばしてしまうような、そんなひとではないと。  「……うん。」  鼻をすすりながら、私はそっけなく頷いた。それ以上の言葉は、上手く見つけられなかった。  「ごめんな。真希のこと、傷付けるつもりはなかったんだ。」  「……うん。」  「ごめん。」  四回目の、ごめん。諒ちゃんは、深く頭を下げた。  私はびっくりして、え、と、声を出してしまった。だって、大人のひとにそんなふうに頭を下げられたことなんか、これまでもちろんなかったから。  「諒ちゃん!?」  「うん。」  「そんな、謝らなくて、いいのに。」   上手く、言葉が出なかった。とにかく、諒ちゃんに、頭を上げていつものふらふらした感じに戻ってほしくて。  「うん。ありがとう。」  やっぱり低く言って、諒ちゃんは静かに頭を上げた。私は少しほっとした。それで、誤魔化すみたいに言った。  「早く帰ろう。ご飯の時間に遅れちゃう。」  「うん。」  諒ちゃんは、そこではじめて笑ってくれた。その笑い方が、大人のひとに向けるちょっと硬いものではなくて、私にだけ向ける、にやにや笑いだったので、私は本当に安心して、素早く立ちあがった。  「帰ろう。」  「うん。」  それで私たちは、手を繋いで家まで帰った。もう両親とは手をつなぐような歳ではなかったけれど、私は諒ちゃんとは時々手をつないで歩いた。諒ちゃんの手のつなぎ方は、私を子ども扱いするというよりも、大人扱いするみたいな、そんなつなぎ方だったから。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!