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 〇七生聖子 「…幸せそうで何より。」  すごく…すごくすごくすごーく心配してたんだけど。  電話もしにくくて…我慢して。  バイトも来るかな…って心配しながら事務所に行くと…  知花は…超幸せそうな顔でバイトに来た。  …左手の薬指に、指輪をして。 「聖子…ありがと。」 「え?」 「指輪のサイズ、千里が…聖子から聞いたって。」 「……」 「ピッタリ。」 「…それはー…良かった。」  …ちょっと。  ちょっと、神さん。  それ、何よ。  あたし、知花の指輪のサイズなんて、教えてないわよね…‼︎ 「…瞳さんの件は、ちゃんと解決した?」  あまりに幸せそうな知花を見て、腹が立ったわけじゃないんだけど…  瞳さんの名前なんて出したら、また知花が落ち込むかもしれないって分かってたんだけど…  聞きたくなった。  どうしても。  どーしても…!! 「あ…うん…一緒に居ても何もなかったって…」 「はあ?何それ。男って都合良過ぎ。そんなの信用できないわよね。」  あたしがプンプンして言うと。 「…うん…でも、もっと俺を信用しろって。」  知花は…少し頬を赤らめて言った。 「……信用しろ?」 「…うん…それと…もっと自信持て…って。」 「……」  確かに…知花は自分に自信を持ってない。  あたしから見たら、知花の独特なふわっとした可愛い雰囲気とか…  そのふわっとした知花が、マイクを持つと豹変しちゃう、あのギャップとか…  とにかく…誰をも圧倒させる歌声とか…  いじりたくなるほどの照れ屋だったりとか…  鈍感な所もあるけど、人への気遣いとか…  もう、愛しい所だらけで…  そんな知花が、自分に自信を持ってないなんて。  あたしが、自信を持たせたい!!って…  今まで、ずっと思ってた。  けど…  やっぱ、こういう役目って…  男。  なんだな…  って、ちょっと今思い知らされて…へこみそうだ。 「あ、見て見て、これ。」  あたしは沈みそうな気持ちを払拭させるために、掲示板に貼ってあるお知らせを指差した。 「何?」 「アメリカの事務所、大きくするんだって。それに伴って、ここからあっちへ移籍するアーティストを選ぶみたい。」 「…ふうん…」  あれ?知花、そっけないな。  シンガーになるのが夢って言ったら…やっぱ… 「やっぱりロックはアメリカよ。でもって、すんごい広い野外でライブよね。」 「…そうだね。」  あたしは夢見ている。  知花が、大勢の前で歌って…高く評価される事。 「あーあ、早く8月になんないかなあ。」  そのためにも、早くデビューして…知花の…そして、あたしの夢を叶えたい。 「うん。あ、そういえば東さんから電話あった?」  あたしの沈みかけた気持ちが、少し上がりかけてたのに…知花が嫌な事を思い出させた。 「…あった。」  東 圭司。  TOYSのギタリスト。  変人と呼ばれるあいつに…なぜか好かれてるあたし。  とにかく…しつこい。 「いい人じゃない。」 「同業者はイヤなのよ。」 「千里と同じようなこと言ってる。」 「何度も言うけど、あたしは自分から好きになった人じゃないとイヤ。」 「好みのタイプってのは、どういうのなの?」  …あんたよ。  とは言えないから… 「背が高くて優しくて頭が良くて音楽関係の仕事をしてない人。」  って言った。  あたしの答えに知花は。 「ね、聖子ってそういうことってあった?」  あたしの顔を覗き込んだ。  …ああ…あんた、そんな顔して見つめないでよ… 「…何。そういうことって。」 「男の子とつきあったりとか…あたしは聞いたことないけど。」 「悪かったわね、ないわよ。」 「もったいないなあ、あれだけモテてるのに。」 「いいの。あたしのことは。」  どれだけモテても。  …一番好きな人に想われなきゃ…意味なんて、ない。
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