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 〇神 千里  朝まで瞳と事務所にいると…ジェフから電話があった。 『瞳はそこにいるのか。すぐに帰って来るように言え』  …日本に来ているようだった。 『帰って来るように言え』が、どこなのか。  ジェフは高原さんのマンションも知っている。  そして、もちろん…この事務所も。  それで俺は、瞳をマンションに連れて帰る事にした。  が…  二人きりは、いただけない。  そう思って、アズを呼び出した。 「アズ、ちょっとうちに来てくれ。」  今日、俺とアズはオフ。 『え?神んち?今から?』 「今すぐだ。」  夕べ…会長室から二度知花に電話をしたが、一度目は話し中で、二度目は留守電になった。  メッセージを残せば良かったと思ったが…俺は何も残さなかった。  そして、今朝電話した時も…知花は出なかった。  あいつ、何してんだ? 「…いいの…?入って…」  玄関で瞳が躊躇した。 「ここなら知られてないからな。」  アズの家でも良かったが…あそこは高原さんのマンションに近い。 「…お邪魔します…」  瞳はゆっくりと靴を脱いで俺に続いた。 「何か飲むか?」  疲れ果てている瞳に声をかける。 「…要らない…」 「少しは何か口にしろよ。バテるぜ?」 「……」  ジェフの電話に…相当追い詰められている気がした。  瞳は立っているのもままならない状態だ。 「…座れ。」  肩に手を掛けて言うと。 「…千里…」  瞳が…泣きながら俺の胸にすがって来た。 「…ごめん…巻き込んで…ごめん…」 「…別に俺には害はない。」  瞳の肩に手を掛ける。 「でも…余計な事ばかり…させてる…本当に…ごめん…」  瞳の手の甲にも…痣。  それを見ていると、たまらない気持ちになった。  瞳はずっと…母親を助けたい気持ちで、必死で耐えていたはずだ。  だが…どれだけ心細かっただろう… 「…俺がいけなかった。おまえがなんて言おうと、高原さんに言っておくべきだった。そうしたら、こんな事にならなかったのにな…」  瞳を抱きしめた。  誰かに守って欲しかったであろう瞳は…一瞬体を震わせたが…俺の背中に手を回した。 「千里…」 「大丈夫だ。高原さんが…絶対、解決してくれる。」 「……」 「あの人は、おまえの事が大事でたまらないんだ。分かってるだろ?」 「……うん。」  しばらくそうして頭を撫でてると、瞳は少し落ち着いたのか… 「…眠い…」  そう言って、俺から離れてソファーに横になった。  その瞬間…  ピンポーン  チャイムが鳴って、俺がインターホンを見ると。 『あ、俺ー』  アズが来た。  それから、アズには…瞳の状況を説明した。  いつもは大げさに驚いたりするアズだが…瞳が暴力を受けていた話には、無表情で。  だが… 「…許せないよね。弱い者に対して、そういうのって。」  珍しく…低い声で言った。  …怒りに満ちた目だった。  それから数時間後…高原さんから電話がかかった。  ジェフは…高原さんのマンションの留守電に、『殺してやる!!』と何度もメッセージを入れていた事。  事務所に押し掛けて、ロビーで暴れた事と…銃を所持していた事で、逮捕された。  高原さんが警察に行って、ジェフの妻と娘に対する暴力について話して。  日本とアメリカの両方の警察で動いてくれる事になった。 「…ありがと。助かった…」  瞳は、俺とアズにそう言って。  高原さんと…事情聴取のため警察に向かった。 「…瞳ちゃん…辛かっただろうね…」  アズが瞳の背中を見送りながら言った。 「……」  俺はそんなアズの肩に手を掛けて。 「…来てくれてサンキュ。」  らしくない…優しい声で言った。
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