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「……」 「え?まだ決まらないのか?」  俺が腕組みしてショーケースを眺めてると、確か…一時間以上前に店を出て行ったはずの千幸が戻って来た。 「…どれもピンと来ない。」  ショーケースに並んでるのは、結婚指輪。  思えば…婚約指輪も知花が学生だからって事で買わなかったが…  あっちのショーケースに並んでた、宝石のついたカジュアルなやつは…普段でも身に着けていられそうだ。  …知花が指輪をしてるのは見た事ないが…ネックレスはしてるよな。  聖子にもらったとか言って。  花の形のペンダントトップのやつ。 「昔から何を決めるにも即決だったおまえが…」 「こういうのは苦手だ。」 「嫁さん連れて来ればいいじゃないか。」 「…色々わけありなんだよ。」  兄弟には…結婚の報告はしたが、知花を紹介するにはいたってない。  知花が卒業したら、式を挙げるのも手だと思ってたが…  まさか退学…  あまりにも俺が腕組みをしたまま動かないからか、見かねた千幸が。 「…仕方ないな。じゃ、目先を変えてみるためにも、まだどこにも出回ってない新作を見せてやろう。」  そう言って、俺を奥の部屋に連れて行った。  神家の次男、千幸は…ここ、高階宝石の一人娘玲子さんと結婚して、婿養子になった。  千幸は俺の四人の兄貴の中で、一番人情的だと思う。  誰にでも優しくて、いつも笑顔…同じ血がかよってるとは思い難い… 「これ、きれいだろ。」 「……」  千幸が出してきたのは…プラチナの指輪だが…  細いゴールドの曲線が、確かに…これは… 「これにする。」 「ははっ。ちょっと待て。これ結構高いんだぞ?」 「高くてもいい。」 「…音楽業界の事はよく分からないが、おまえそんなに稼いでるのか?」 「たぶん、千幸が思ってるよりは稼いでる。」 「……」  千幸は無言で値札を俺に見せた。 「……」  俺も無言で千幸を見る。 「な?高いだろ?」 「高い安いじゃねーんだよ。これが気に入ったから、これにする。」 「…無理するなよ。」 「無理なんかしてねーよ。俺はこれの何倍も稼いでる。」 「え?」 「一ヶ月で。」 「………あー、俺ももう少し弟の仕事に興味を持たなくちゃだよなあ。」  千幸はそう言って笑うと。 「サイズは?」  俺の目を見て言った。 「…知らねー。」 「は?それじゃダメだろ。まずおまえのサイズを…」  そう言って、千幸はジャラジャラと指輪が束になったような物を持って来た。 「なんだコレ。」 「リングゲージ。ほら…はめてみろよ。」  千幸に言われて、そのリングゲージとやらから自分の薬指に合いそうな物をはめていく。 「…おまえ意外と指細いな。」  どうやら俺は、12号らしい。  そうか…細いのか。 「力仕事しねーからな。」 「若いクセに…」 「嫁さんを抱えるぐらいはする。」 「……ごちそーさま。で、嫁さんのサイズはどうする。」 「……」  俺は無言でその『リングゲージ』を手にして… 「…これだな。」  7号を選んだ。 「何だよ。自信満々に。」 「分かるだろ普通。」 「分かるか。そんなの。」 「自分の嫁でもか?」  俺の言葉に、千幸は呆れた顔をして。 「もしこれがピッタリだったら、何かオマケしてやるよ。」  ニヤニヤしながらそう言った。
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