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 退学になった知花は、朝からフルでバイト。  知花がいなくなった学校生活は、あたしにとっては拷問のようだった。  神さんが瞳さんとの事…ちゃんとしてくれてたら…  知花は学校を辞めずに済んだのに…なんて。  つい、神さんのせいにしてしまう。  そして、知花が色々暴露したせいで、学校の目があたしと…まこちゃんにも向いてしまった。  ひえー。  なんて思ったけど…  うちは、七生なわけで。  学校にも、たくさん寄付してるわけで。  そして、ビートランドの会長は伯父貴なわけで。  バイトの件は、誤魔化してくれた。  バンドの件は… 『才能のある生徒がいる事を、むしろ誇りにするべきです』  って…伯父貴が言ってくれた。  デビューも決まってるって事で、何とか…今はまだ表沙汰にしないって事で、退学はまぬがれてる。  …あたしも退学になりたかったよ…  知花からは、すごく謝られたけど…  あたしとまこちゃんは、退学にならなかった事の方が…申し訳ない気がした。  知花だって…  結婚してる事と、赤毛の事…  よく考えたら、どうにでもなったかもしれないのに。 「聖子。」  学校が終わって、事務所に向かってると…声をかけられた。  振り向くと…神さん。  …気が付いたら、呼び捨てされるようになってた。  何よ気安く…って思ったけど、まあ…知花の旦那だし…いっか。 「バイトか?練習か?」 「バイトです。」  神さんは自転車にまたがったまま、あたしの隣に並ぶと。 「おまえに、頼みがあんだけど。」  周りを見渡して、声のトーンを落として言った。 「…何ですか…」  頼み…? 「…俺に、知花の指輪のサイズを教えたって事にしといてくれよ。」 「あ!!」  そうだよ!! 「それ、聞こうと思ってた!!」 「…知花から何か聞いたか?」 「聞きましたよ!!あたし、危うく知らないって言うとこだったんだから!!」  あたしの言葉に、神さんは首をすくめて。 「言うとこだった、って事は、言わずにおいてくれたんだな?サンキュ。」  小さく笑った。 「なんで?」 「あ?」 「なんで、あたしにサイズ聞いたって?」  あたしの問いかけに、神さんは自転車から降りて。 「…別に、話の流れで。」 「…指輪、ピッタリだったけど、調べて?」 「いや…勘。」 「…勘?」 「ああ。」 「……」  お…恐ろしい。  結婚指輪を勘で買うなんて… 「…勘で当てたって言った方が、知花は喜ぶんじゃ?」  あたしがそう言うと。 「なんか、そういうのバレたくないっつーか。」  神さんは少し嫌そうな顔をした。 「…バレたくない?」  なんでだろ。  知花の事好きなら、知花が喜ぶ事したいって思うはずだよね?  神さん…本当に知花の事好きなの!? 「とにかく、俺にサイズを教えた事にしとけよ?」 「…えー…どうしようかなー…」  何となく意地悪がしたくなってそう言うと。 「…ただで…とは言わない。」  神さんは、意外な事を言った。 「…何か、いい物でも?」 「知花とおそろいのバッグチャーム。」 「…え?」 「もらったんだけど、俺はこんなに可愛いやつなんて要らねーから。」  神さんはそう言うと、ポケットから… 「わ…きれい…」  チェーンに、小さな地球や星がぶら下がってるチャームを取り出した。 「って…これ、ちょっと高価じゃない…?」  持たされたそれ…見た目の割に重い。 「宝石屋をしてる兄貴にもらった物だから。」 「えー、お祝いにもらった物を?」 「祝いじゃなくて、オマケだから別にいい。知花にも、兄貴からオマケを二つもらったから一つを聖子にやれって言っておく。」  何だか…よく分からないけど。  そのチャームがあまりにも気に入ってしまったあたしは… 「分かりました。内緒にしときます。」  神さんの目を見て言った。  知花とお揃いって…嬉しいし。 「契約成立。」  神さんはそう言って、あたしの手からチャームを取ると。 「これは後日、知花からもらえ。」  そう言って…  その三日後、あたしは知花から。 「これ、千里がお兄さんにもらったみたいなんだけど、可愛すぎるから要らないってくれたの。お揃いでどこかにつけよう?」  そう言って、神さんに見せられたチャームをもらったんだけど… 「…イニシャル?」  神さんに見せられた時にはなかった、Sが…地球の隣に。 「あたしも、Cって付いてるの。」  知花はそう言って、自分のチャームを見せた。 「…お兄さんにもらったなら、どちらもCだろうにね。」  あたしがそれを手にしながら言うと。 「これだけは千里が後付けしてくれたみたい。」  知花は満面の笑み。 「後付け?」 「うん。千里…ああ見えて、聖子の事、すごく信頼してくれてるみたい。バンドメンバーとしてだけじゃなくて、学校辞めても親友でいてもらえよ?って笑ってた。」 「……」  そんなの…  そんなの、当たり前じゃない!!  って思う反面…  あたしが知花を好きな事、見透かされてるのかと思って…ドキドキした。 「…どこに着ける?」  あたしがチャームを手にして問いかけると。 「お財布に着けようかなって思ったんだけど、金具が引っかかっちゃいそうなのよね。」 「なるほど…じゃ、色違いで買ったバッグはどう?」 「あ、いいかも。じゃあ、あのバッグ毎日使おうっと。」 「あたしもそうする。」  …神さん。  悔しいけど…  ほんっと…悔しいけど。  あんたを、知花の旦那として、認めるわ。  でも、泣かしたりしたら…承知しないから。
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