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〇高原 瞳
四月。
あたしは…もう二度とアメリカには戻らないと決めて…国籍を日本に移した。
ママは…弁護士を通して、ジェフとの離婚も決まって…パパが探してくれた日本の施設に入る事が出来た。
…あたしの妹って事になってる…あの子は…
子供のいない、ジェフの親戚に…すでに引き取られてた。
ママは…何も知らない。
判断も出来ないから…仕方ない。
歌う事は…少しの間休んだらどうかと言われた。
言われたけど…歌を休んだら、あたしは何をすればいいのかな。
パパは、マンションで一緒に暮らすかって聞いてくれたけど…
あたしは、それを断った。
甘えていいって言われて…甘えたいとも思ったけど。
そうしたら、きっとあたし…どんどん甘えてしまって、ダメになっちゃうよ。
ママを支えたい。
そのためにも、あたしは強く生きていかなきゃいけない。
じゃあ、休む間はビートランドで働くか?って聞かれた。
だけどあたしはシンガーであって、スタッフとして働くなんて気はない。
プライドは持っていたい。
しばらく休んでも大丈夫なぐらいの貯金はあるし…あたしは、自分の心のケアとママの付き添いに時間を使う事にした。
「何年ぶりかなあ!!」
目の前のサラは、あたしをギュギューッとハグして、満面の笑み。
「たったの三年ぶり。」
あたしが髪の毛を後ろに追いやりながら言うと。
「それにしても、よくあたしの事覚えてたね。」
サラは嬉しそうに、あたしの手を握って言った。
「覚えてるわよ。あたしのこっちの学校での女友達って、サラしかいなかったもん。」
「あはは。そう言えばそっか。瞳、ハッキリ言い過ぎて、他の子とはすぐケンカになってたもんね。」
「そんなにハッキリ言い過ぎてたかしら?」
「言ってた言ってた。」
こっちの学校の寮で同室だったサラ。
あたしは、彼女の実家の連絡先も知ってたから、住む場所を探すにあたって連絡を取った。
そして、近況を聞いて…
「しばらくルームシェアさせてくれない?」
と、申し出た。
現在女子大生のサラが一人暮らししてるアパートから、事務所まで5km。
ママのいる施設は少し遠いけど…自転車が手に入れば、どこにだって行ける。
うん。
悪くない。
あたしは、必要最低限の荷物だけを持って、サラのアパートの玄関に立った。
「彼氏を連れ込む時は言ってね。遠慮するから。」
「残念な事に勉強一筋よ。男は夢を叶えてからにするわ。」
「サラが?この三年間に何があったの?」
「ま、それはお互い時間のある時にゆっくり。じゃ、これ鍵ね。あたし、学校行って来るわ。」
「ありがと。行ってらっしゃい。」
何ともサバサバとした再会。
だけどありがたい。
それから、少し近所を散策して。
大きなショッピングモールを見付けた。
そこで乗りやすそうな自転車を見付けて、すぐに買った。
これで…あたしはどこにでも行ける。
そして…今回の事では、すごくお世話になった千里に…何か贈り物をしたいと思った。
結婚祝いも兼ねようかな…
パパに聞かれても、あたしとの交際はなかったって言わなかった千里。
あたしが嘘をついた事…パパにガッカリさせたくなかったんだと思う。
それほど、千里はパパの事を好きだし尊敬してる。
…悪かったな…
でも、本当は…今でも千里の事…好き。
好きだけど、ママを見てたら…人を愛するって苦しい事にしか思えなくて。
あたしは、誰かを深く愛するって事に…恐怖感を覚えてる。
パパを想い続けた結果が…今のような状態だなんて…
ママはずっと苦しんでた。
ただ、パパを好きだっただけなのに…
パパが好きになった誰かを憎んで…
その人に酷い事を言って、二人の幸せを壊した…。
ママの気持ちを想うと、あたしは…人を好きになるのが怖い。
千里の事…好きだったけど、どこかでセーブしてたと思う。
だから…千里の結婚は、祝福したい。
…そう言えば、奥さんも歌ってる人だって言ってたっけ…
結婚祝いを何にしようか、店先で悩んでたけど。
あたしは、そのまま自転車に乗って事務所に向かった。
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