15

1/19
前へ
/163ページ
次へ

15

 〇高原 瞳  四月。  あたしは…もう二度とアメリカには戻らないと決めて…国籍を日本に移した。  ママは…弁護士を通して、ジェフとの離婚も決まって…パパが探してくれた日本の施設に入る事が出来た。  …あたしの妹って事になってる…あの子は…  子供のいない、ジェフの親戚に…すでに引き取られてた。  ママは…何も知らない。  判断も出来ないから…仕方ない。  歌う事は…少しの間休んだらどうかと言われた。  言われたけど…歌を休んだら、あたしは何をすればいいのかな。  パパは、マンションで一緒に暮らすかって聞いてくれたけど…  あたしは、それを断った。  甘えていいって言われて…甘えたいとも思ったけど。  そうしたら、きっとあたし…どんどん甘えてしまって、ダメになっちゃうよ。  ママを支えたい。  そのためにも、あたしは強く生きていかなきゃいけない。  じゃあ、休む間はビートランドで働くか?って聞かれた。  だけどあたしはシンガーであって、スタッフとして働くなんて気はない。  プライドは持っていたい。  しばらく休んでも大丈夫なぐらいの貯金はあるし…あたしは、自分の心のケアとママの付き添いに時間を使う事にした。 「何年ぶりかなあ!!」  目の前のサラは、あたしをギュギューッとハグして、満面の笑み。 「たったの三年ぶり。」  あたしが髪の毛を後ろに追いやりながら言うと。 「それにしても、よくあたしの事覚えてたね。」  サラは嬉しそうに、あたしの手を握って言った。 「覚えてるわよ。あたしのこっちの学校での女友達って、サラしかいなかったもん。」 「あはは。そう言えばそっか。瞳、ハッキリ言い過ぎて、他の子とはすぐケンカになってたもんね。」 「そんなにハッキリ言い過ぎてたかしら?」 「言ってた言ってた。」  こっちの学校の寮で同室だったサラ。  あたしは、彼女の実家の連絡先も知ってたから、住む場所を探すにあたって連絡を取った。  そして、近況を聞いて… 「しばらくルームシェアさせてくれない?」  と、申し出た。  現在女子大生のサラが一人暮らししてるアパートから、事務所まで5km。  ママのいる施設は少し遠いけど…自転車が手に入れば、どこにだって行ける。  うん。  悪くない。  あたしは、必要最低限の荷物だけを持って、サラのアパートの玄関に立った。 「彼氏を連れ込む時は言ってね。遠慮するから。」 「残念な事に勉強一筋よ。男は夢を叶えてからにするわ。」 「サラが?この三年間に何があったの?」 「ま、それはお互い時間のある時にゆっくり。じゃ、これ鍵ね。あたし、学校行って来るわ。」 「ありがと。行ってらっしゃい。」  何ともサバサバとした再会。  だけどありがたい。  それから、少し近所を散策して。  大きなショッピングモールを見付けた。  そこで乗りやすそうな自転車を見付けて、すぐに買った。  これで…あたしはどこにでも行ける。  そして…今回の事では、すごくお世話になった千里に…何か贈り物をしたいと思った。  結婚祝いも兼ねようかな…  パパに聞かれても、あたしとの交際はなかったって言わなかった千里。  あたしが嘘をついた事…パパにガッカリさせたくなかったんだと思う。  それほど、千里はパパの事を好きだし尊敬してる。  …悪かったな…  でも、本当は…今でも千里の事…好き。  好きだけど、ママを見てたら…人を愛するって苦しい事にしか思えなくて。  あたしは、誰かを深く愛するって事に…恐怖感を覚えてる。  パパを想い続けた結果が…今のような状態だなんて…  ママはずっと苦しんでた。  ただ、パパを好きだっただけなのに…  パパが好きになった誰かを憎んで…  その人に酷い事を言って、二人の幸せを壊した…。  ママの気持ちを想うと、あたしは…人を好きになるのが怖い。  千里の事…好きだったけど、どこかでセーブしてたと思う。  だから…千里の結婚は、祝福したい。  …そう言えば、奥さんも歌ってる人だって言ってたっけ…  結婚祝いを何にしようか、店先で悩んでたけど。  あたしは、そのまま自転車に乗って事務所に向かった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加