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 〇森崎さくら 「…さくら。」  耳元でなっちゃんの声がして…目を開けた。  …やだ。  あたし、すごく…ぐっすり眠ってた。  なっちゃん、あたしは今ね…  なっちゃんの夢見てたのよ?  少しだけ、口元を笑わせると…なっちゃんは笑顔になった。 「今日はゴキゲンだな?」  うん。 「なかなか…戻って来れなくて悪い。」  イギリス…行ってたんだってね。 「俺の生まれ故郷に…事務所を創ろうと思ってね…」  …生まれ故郷…  そっか…なっちゃん…イギリスで生まれ育った…って話してくれたね… 「…いつか…一緒に行こうな?」  うん…行きたい… 「…さくら。覚えてないかもしれないけど…」  …何? 「俺とさくらは…リトルベニス…俺の生まれ故郷で…結婚式を挙げる予定だったんだ。」  ……  あたしは、いつもよりたくさん、瞬きをした。  あたしとなっちゃん…  結婚…  結婚式…  リトルベニス…  少し、色々な事が…頭をかすめた。  青いリボン…  サムシングブルー…  ……周子さん。 「…っ…」 「さくら?」  あたしの身体が少しだけ…驚きで揺れて。 「さくら…大丈夫だ。」  なっちゃんが心配そうに…抱きしめてくれた。 「…悪かった…思い出したくないよな…」  …思い出したくない?  どうして…?  周子さん…  周子さんて…  前に、会いに来て…あたしの頭を、ずっと撫でて…  歌ってくれてた人だ。  そうだ。  あの人…ずっと、あたしに謝ってた…  周子さん…  ……瞳…ちゃん…  そうだ…  周子さんは…  なっちゃんの…子供を産んだ人…  どうしてだろう…  色んな事が…次々と湧いて出て来るみたいに…  あたしは、なっちゃんの腕にしがみついて…言ってみた。 「…ひ…瞳…ちゃ…ん…」  するとなっちゃんは、驚いたようにあたしの顔を見て。 「さくら…何か思い出したのか?」  小声で言った。 「…しゅ…こ…さん…」 「…周子と…瞳の事を…思い出したのか?」  なっちゃんの問いかけに、あたしは瞬きを一度した。  そうだ…  あたし…  あの二人を、不幸にした…  あたしのせいで… 「…二人とも、今日本にいるんだ。」  …え? 「周子は…体を壊して、施設に入ってる。」  …… 「瞳は、来週デビューするよ。」  …デビュー…って… 「シンガーなんだ。今度…CDを持って帰るから、聴いてやってくれるか?」  シンガー…  なっちゃんと…周子さんの娘さんが…  シンガー…  あたしの中に…  少しだけ…嫌な感情が湧いた。  酷い…なっちゃん…  あたしとなっちゃんの赤ちゃんは…死んだのに…  …え?  あたしと、なっちゃんの赤ちゃん…? 「さくら…?」  あたし…  なっちゃんの赤ちゃん…  …貴司さん… 「さくら?どうした?」  なっちゃんの声が…あたしに届かなくなった。  貴司さん…  桐生院貴司…さん。  あたしの、夫になった人…。  あたし…  なっちゃんじゃない人と…  結婚した。  31st 完
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