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俺の見た目といえば、黒に金のインナーとメッシュの襟足長めのマッシュウルフ、両耳合わせて十以上のピアス、身長も一八三でそこそこある。
仁織には「ヤクザ並みの目つきの悪さ」だと言われているし、どうしてもそのままだと目立つかもしれない。
ので、現場にはリクルートスーツに黒髪七三のウィッグ、黒縁眼鏡というリーマン風の変装で行っていた。
しかし、そんな現場という楽園に行くことさえできなくなった。女神達が、楽園を去ってしまったからだ。
突然のことに混乱するファンたちの中には、二人の家や学校を特定しようとする過激派が現われたが、すぐに鎮火した。
元々事務所の力か二人のプライベートな情報はデビューから今に至るまで一切出ていないのもある。
普通なら同級生からのリークがあるものだが、テテに関しては十八歳の高校三年生ということしか分かっていない。二人とも帰国子女説など色々あるが、真相は引退した今も不明だ。
「じゃ、俺らは帰るけど世理人はどーする?」
仁織と智哉はそれぞれ荷物を手に席を立つ。今日は明日のライブのための簡単な打ち合わせと練習でスタジオに行った帰りだった。
「……俺はもう少し居る」
「あまり根を詰め過ぎないようにね。キリのいいところで切り上げるんだよ」
智哉に優しくぽんと肩を叩かれ、テーブルに伏せたまま手をひらひらと振って「ん」と軽く返事をして二人を見送った。
こうやってうんうん唸っていても曲ができるわけじゃないことは分かっているが、何かスランプを脱するための切欠を見つけられないか――三年前のスランプのことを思い出して、気が急いていた。
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