第二話 瓜二つの少年

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 『TS』――高校の保健の授業で習ったことを思い出した。  全人類の約0.0001%の人間が持って生まれるという特異体質で、日本にも年十数人は生まれているらしい。  彼らは、思春期に当たる中学から高校の約六年間、生まれ持った性とは異なる性別に姿形が変わる。  その期間を迎えると、ひと月ほどで男性は女性へ、女性は男性へ身体が変化する。身長も体重も、骨格も胸も、勿論生殖器も、だ。  しかし、性器については生殖機能を持っていない。元々女性の人は精子を作らないので射精はしないし、元々男性の人は卵子を排出しないから生理が存在しない。つまり、子供を作ることはできないわけだ。  TSの期間を終えると元の性別にまたひと月ほどかけて戻る。戻った後は、元々の性別の生殖機能を持つらしい。  ただ、悪いことを考える大人はいて、このTSの人は犯罪に巻き込まれることが多いという。  例えば、妊娠出産のリスクがないことを利用した売春、見た目が変わる直前のTSを使った闇バイトなどだ。  そういった犯罪から未成年者を守るため、「TS法」が制定されたというが、その詳しい内容は――正直習ったのか習っていないのかさえ不確かなくらい覚えていない。 「……で、お前がその稀少な『TS』だっていうのか?」 「はい。二ヶ月前に完全に身体が変わって、男性に戻ったんですけど」  俺は真顔で答える高校生に鼻で笑って、「そんなの信じられるかよ」と肩を竦めた。  今まで生活していて一人も出会ったことがないし、保険の授業以外で聞いたこともない人間が、都合よく目の前に現れるなんてことがあるわけがない。
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