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「証拠も、あります……!」
と鞄を探ろうとしたのか両手を見た高校生は、足元に転がっている荷物に気付いて、慌てて拾う。
結構音を立てて散らかったように思うが、これに気付かないとはよほど動転していたか天然ボケなんだろう。
俺は仕方なくテキストを纏めて手渡した。
「ありがとうございます」
そう言って高校生は微笑み、テキストを抱える。その彼の表情を見た瞬間、心臓がどくんと跳ねた。
まるで、なぎさに初めて会った時のような──というか、笑い方が「なぎさ」にそっくりだった。
恥ずかしそうに口角をきゅっと上げて唇を開かずに笑う、その表情が、あまりにも。
高校生は荷物を鞄にしまうと、手帳から一枚のカードを取り出した。
「学生証です」
手渡されたカードには少年の写真と学校名、そして「篠宮凪佐」という名前が書かれていた。
「この学校名で調べて貰えば、国がTSを保護するために建立された通信制の中高一貫校であることが分かります」
「しのみや、なぎさ?」
学校のことなどどうでもよかった。「凪佐」という最推しアイドルとの偶然の名前の一致。
「なぎさ」に似た笑顔を見せる少年というだけでも、俺の心を掻き乱したのに、だ。
「はい、僕の名前です。出生時にTSだと検査でわかった子は、中性的な名前をつけられることが多いそうですよ」
俺は襟足を掻き上げて溜息を吐いた。俺の反応に凪佐はきょとんとしている。
「知らないやつに軽率に個人情報晒すな。俺が悪い奴だったら、君を脅したり強請ったり犯罪に巻き込まれてるとこだぞ」
「……君」
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