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仁織は俺と同じフリーターだが、智哉はフリーのデザイナーだ。主に広告やパッケージデザインをやっていて、俺達のCDジャケットも毎回デザインしてもらっているから助かっている。
窓の外に視線を向ける。街はついこの間までハロウィンのカボチャが飾られていたのに街路樹にはLEDライトが巻きつけられ、すっかりクリスマスの装いだ。
──俺の中では夏から時間が止まっているというのに。
「依川さん、音楽活動されているんですか?」
「ひッ……!」
唐突にすぐ近くで声を掛けられて、思わず変な声が出てしまった。いつの間に移動したのか、凪佐が俺の傍らに立っていた。その凪佐の視線の先を追うと、俺のギターケースがあった。
「あ、ああ、バンドをな」
「そうなんですね! 僕も音楽好きで、歌うのが特に」
凪佐はパッと目を輝かせている。俺と話したいらしい。というか、音楽の話がしたいのだろう。
このミュージックカフェに入った時点で、少なくとも音楽が好きでなければ普通は選ばないだろうから。俺の頭の片隅に、「なぎさ」が過ぎる。
「こっち座るか?」
「えっ、お邪魔じゃないですか?」
「ちょうど煮詰まってたとこだしな。逆に君の勉強の邪魔かもだけど」
「いえ、それなら僕も集中できなくて……依川さんと同じですね」
凪佐が荷物を持ってきて、俺とテーブルを挟んで向かい側のソファに座った。
「依川さんは──」
「世理人でいい。普段から苗字で呼ばれ慣れてねえし」
「じゃあ、世理人さん。僕のことも『凪佐』と呼んで下さい」
微笑む凪佐に、思わず胸がきゅっとなった。どうも頭の中で「なぎさ」がちらついて、身体が反応してしまう。
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