26人が本棚に入れています
本棚に追加
「世理人さんはバンドでどんな曲を演奏されているんですか?」
「演奏……つうか、ボーカルギターなんだけど」
「ボーカルギター……! どんな歌ですか? 聴いてみたいです」
身を乗り出して目を輝かせる凪佐に、つい視線を泳がせる。絶対好きな音楽じゃないだろう。引かれるだけだ。
「世理人くんのバンドの曲流しましょうか?」
テーブルの上に置いてあった凪佐の飲みかけのカフェラテと水を運んできたマスターが、余計なお節介を働く。
「えっいいんですか? ぜひ聴きたいです」
「いやいや勝手なことすんなよマスター! 俺の傷口が拡がったらどうすんだよっ⁉︎」
「なぎさ」に似た凪佐に音楽を否定されて、致命傷を負ったらどうする? もうスランプどころの話じゃない。
「おや? 『俺の音楽が好きなヤツにだけ響けばいい』とか以前おっしゃっていたように記憶していますけど、今日会ったばかりの彼に嫌われたくらいでショックを受けたりするんですねぇ」
「うっせえなッ! いいんだよ! それはそれ、これはこれ!」
「帰れ帰れ」とマスターを追い返して溜息を吐く。妙に勘が鋭いというか、痛いところを突いてくる。
と、そこでようやく正面の凪佐に視線を戻し、残念そうに眉をひそめる凪佐を直視して、胸が痛かった。
純粋に聴いてみたいと思っただけなのだろうが、今の俺には他人の否定的な反応を呑み込めるほどの精神状態にない。
「俺のことより、凪佐の方はどうなんだ? 歌が好きって言ってたけど、将来プロになりたいとか考えてんのか?」
俺から凪佐へ話を振る。その方が一番俺の精神にはいい――と、思ったが。唐突に凪佐の表情が陰り、不穏な空気が流れる。
最初のコメントを投稿しよう!