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テテに、なぎさ出会って三年間、俺の中には音楽が溢れていた。
創作活動には苦しみがつきものだけど、その苦しみに寄り添って背中をそっと支えてくれるような優しさがテテの歌にはあった。
三年前、俺は高校時代から一緒に音楽をやっていた仁織と――俺がギターボーカルで仁織がベースだ――、初ライブで助っ人としてライブハウスの店長から紹介してもらったドラムの智哉の三人でバンド「B4N」を結成した。
それまで本格的な曲作りはしたことがなかったが、俺が今まで適当に作っていたいくつかの曲を智哉に聴かせたら強く勧められて、バンドの曲を作ることになったのだ。
最初の二曲は結構すんなりできて、俺才能あるかもとか勘違いしたのだが、三曲目が似たようなのしか浮かばなくて難産、挙句スランプに陥った。
死ぬほど苦しんでいた俺は、今居るスタジオの近くにある行きつけのミュージックカフェのカウンターに、今日と同じように突っ伏していた。
その時俺の耳に入ってきたのは、優しく繊細で綺麗な高音。「大丈夫。一緒に一歩ずつ進んでいこう」と語りかけるような歌声。
気付いた時には俺の頬を涙が伝い落ちていた。
俺はマスターに歌声の主が誰なのかを尋ね、先月デビューしたばかりのアイドル「courte été」であることを知った。
そしてその日のうちに、ファーストシングルを音楽配信アプリでダウンロードして聴きまくり、翌日にはライブ兼握手会があることを知ってバンド練習をキャンセルして駆け付けた。
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