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二百人しか入らない小さなライブハウスで、それぞれオレンジとバイオレットの衣装を身につけたゆきとなぎさを最後列から初めて見た。
俺は歌声でなぎさに惹かれていたのもあるけど、可憐で美しいなぎさに心を掴まれた。
ダンスは苦手なのか、ぎこちなかったが、一生懸命さが伝わってきて心の中で何度も応援してしまったし、抜群の歌唱力はアイドルの枠に収まらない表現力で俺の心を打った。
呆然となぎさを見詰めているうちにライブは終わった。CDとグッズを購入し、握手会の列に並ぶ。先にゆき、次になぎさの順に握手する。
「う、歌! すごくよかったっすッ……!」
なぎさと握手して、何か言わなければとそれだけ伝えた。なぎさは大きな瞳を細めて口角を少しだけ上げて、はにかむように笑った。
「ありがとうございます!」
あ……推すわ。
その笑顔を受けてフリーズした俺は剥がしに追い出されて、会場を後にした。
衝撃を受けたその日から、俺はテテの、なぎさのファンになった。
バンド活動費のためのライブハウスのスタッフバイトに、推し活用の引っ越しバイトを増やした。
握手会やライブの現場には時間が許す限り行ったし、二人にはバレていないようだがなぎさへの想いを籠めて作った曲もある。
ただ、仁織にはまたスランプになられるよりはマシだから行くなとは言われなかったが、バンドのイメージ――オルタナティヴ寄りのハードロックで基本的に世界観は重め――に合わないから絶対誰にもバレるなと口酸っぱく言われている。
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