第二話 瓜二つの少年

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「すっ、すみません……!」  慌てふためく高校生に、俺は詰め寄った。足元のテキストに書かれた「大学入試」という文字が目に入る。 「すみませんじゃねえよ。女子トイレで何しようとしてたか聞いてんだよ」 「な、何もしないです! 普通にトイレに入ろうとして、間違えただけで――」 「こんなはっきり女子トイレって分かるように書いてあって間違えるわけねえだろ」  逃げられないように壁に手を置いて退路を断ち、俺より十センチは小さい高校生を睨み付ける。  バンドを結成してから三年、マスターとも馴染みになったくらいの行きつけのミュージックカフェだ。なぎさの歌と出会った思い出深い場所でもある。  この高校生が警察沙汰になるような可笑しなことをしようなどと考える不届き者だとしたら、怒りも湧くというものだ。 「わたっ……僕、は……この間まで、女性だったので……癖で……」 「……は?」  ミディアムくらいのストレートの黒髪。前髪が長く、間から覗く瞳は大きく睫毛が長い。  中性的な顔立ちで華奢ではあるが、身長は一七○くらい、肩幅など骨格は女性とは明らかに違う。薄っすらとだが喉仏も見える。  それで、「この間まで女性だった」とはどういう意味だ? 「『TS』って聞いたことないですか?」 「……『TS』? 聞いたことあるような、ないような……?」 「数年間異なる性に転換する特異体質を持つ人のことです」
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