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情とかいう、責任感で。
雛祭りと一緒にされがちな平日が私の誕生日だ。
誕生日の前に一仕事のお雛様のお片付けは普通で、でも誕生日でもあり、祝う前に片付けが発生することにはてなを浮かべたものだ。
生憎、まだ行き遅れている。
なんだかんだ、いい感じに祝ってもらった。当日には日付代わり一番に飛び込んできた犬っ子ろもいたし、平日なもので出勤したら覚えてくれていたらしい同僚が言葉をくれ、それを聴いた別の部署のお姉さまからも言葉を貰い、何なら取引相手からはしっかり品を頂いた。個人的にも仲良くさせてもらっているからだろうけれど。
あとはガサツに作っておいたほしいものリストから数点、送られてくる旨が通知されている。
そのうちの一つが彼氏くんでなければ、もう少し私の気も晴れやかなのだろうか。
いや、誕生日を覚えていたか、私や周囲のSNSとかの発言で気がついたのかまではとやかくは言わない。私は正直記念日は全く覚えていないから。
だけども、一応だ。それなりの歳の女に贈る、しかも彼女という枠組みの女に贈るのが、ほしいものリストの中のお菓子って。
嬉しいよ、タダで好みのお菓子が箱いっぱいになってやってくるんだから。でもほしいものリストに入れていたお菓子のたぐいはどいつもこいつも所謂、訳あり商品だ。サイズ規格とかに合わなくって弾かれたやつとか、切れ端まとめましたとかいうやつである。
つまり、だ。
彼の懐から出されたのは千円ちょっとぐらいなのでは?
思わず立ち止まっても、仕方ないと思わないだろうか。
確かに、プレゼントの箱を開いたら趣味の合わないアクセサリだったりとかして悩むこともある。服とかもそうだ。小物もそう。
でも、片手間のお菓子よりかはマシだと思うのね。
私のSNSを見ていた犬っ子ろが、あそこの箱って彼氏さんから?とか訊いてくるじゃない?
そうだよね、普通はそう思うと思う。ところがそのそれなりのブランド名のボディケアセット箱が、取引先さんからなのである。どういうことなんだかさっぱりだ。
確かに私は普段から、無駄は嫌いだだの、これは興味ないだのと物は申しました。
ただ今どき、住所を知らなくても送る方法もあるし、オンラインギフトだってたくさんあふれているのに、ただネット通販の飾り気ゼロのギフト券が、誕生日もホワイトデーもクリスマスにも贈られてみてみろ、嫌気が指すだろう。だから一回断った。確かに便利よ、否定はしない。相手も好きなものに使えるのはそう。そうだけども、いうなればこれで好きなもの買ってきなさいと札を渡されているのと同じなわけだ。
親ならまだ、まだ分からなくもない、いや分かんない。うちの親は少なくとも娘の好きなものを持ってくるからだ。
誕生日に、一応ですよ。恋人とされる人物から札だけぽいっと渡されるんだ、やさぐれてもいいだろう。
そのせいか今回はリストから選択という手段が取られたことに、誠に遺憾の意を表明したい。
わかってるよ、私が半分ぐらい悪いのは。
何かに付けてデートは断るわ、話は流すわで。でもひたすらに自分をサゲ続ける男の話なんて訊いてて気持ちのいいものではない。そんな男が私を好きだなどと申されると、私はその程度の女なのかとも思ってしまう。
お前は自分のことを能無しだのなんだと言うけれど、その能無しの彼女やってる私は何なの?と。
逆に彼側からすれば、私はそれでもとりあえずは口を利いてくれる異性とかなのかもしれない。もはや義務的になったってよくないだろうか。
どうしてそんな男と続けているのかと聞かれたら、別れる決定的な理由がないという一点に尽きる。理由が出来たら?後腐れがなさそうなら別れるとは思うな。
ただ彼氏くんは恐らくそれなりに私との未来を思い描いているらしい。つまりその程度の好きはあるということだ。なんかやたらに金回りは頑張るからみたいな主張もしてくるということは、養うというお気持ちもあるらしい。
……そこまで想っていたとしましょう。
そんな女に渡すプレゼントが訳ありのダンボール箱付お菓子って、何よ。
彼氏くんに普段自らコンタクトもなにも取らない私でさえ、珍しくご立腹だ。
もちろん出かけようたって予定が合わないとかあります。だけど先に言ったように手段はあるのだ。
彼氏って彼女に可愛くいてほしいもんじゃねぇの?違うの?世の中コスメ買ってくれる彼氏もいると聴くのだが、なにかの誤報でございましたか?
可愛くいてほしいとか置いといたとしても、もうちょっとさ、思考時間をかけてほしいというか、ありますよね。
こんなのが好きだったよな、とかさ。
その結果ちょっと違うものが届いたとしたら、怒りません。むしろなんとかしようと私でさえ思うのに、それすらもされないのだ。
高ければいいとは言わないし、別にお菓子が悪いと言ってるわけじゃない。
だけど、私が提示しているリストから、上に居たのだろう適当な菓子でいいやとちゃっとやっちゃってるのが駄目なんだよ、てめぇよ。
頑張って選んだお菓子とかならそりゃ大切に食べますよ。
頑張って選んだ慣れないコスメやら服やらならなんとかしますよ。
だって少なくとも、「私」を想像して何がいいかと思考を割いてくれたのだから。
取引先さんは私のことを、ちゃんと年頃の女として見てボディケアセットをくれたわけだ。これは嬉しいだろう。可愛い女と思われているのなら万々歳だ。
犬っ子ろは負担に思わせない程度だけど、日常でちょっと特別になれるオンラインギフト。
同僚が時間のない中、慌てて買ってきてくれた、コンビニのスイーツたち。
わかるだろ。
なあ。
お前はそんな「私」を考えてくれた人たちよりも、遥かに下を行ったぞ。
流石にそんなことは直接言わない。プレゼントはありがとうとは述べたよ。
この服かわいいなとか見ていた自分がちょっと恥ずかしくなってくる程度、そのぐらいだ。
でも、曲がりなりにも好きだ、養うと意気込むならばもうちょっと。
なんとかならなかったのかしら。
訳ありのチョコタルトに罪はないけれど、個包装のまま机に叩きつけて、砕いてしまう。
ロマンチックすぎるのは苦手よ。でも、あまりに業務的すぎるのは、どうなのかしらね。
私だって、可愛い女の子と思われた方が嬉しい。
やけくそ気味に頂いたボディケアセットでひたすらご自愛の魔法をかけた。
どうせこんなことしたって次会うときの変化にも気づかない男なのだ。そも、可愛いと言ってくれやしないのだ。
いっそ完全に行き遅れてやろうか。
本来ならこういうことは言葉にして伝えるべきなのは、わかっている。
でも。
どうせ無駄だなという気持ちのほうが先に浮かぶ。
女心が分からないのは仕方なくても。
私はあんたの第二の母親じゃないんだから。
もっと特別にしなさいよ、馬鹿がよ。
毎回デートの服考える気も失せたわ。毎回映画からの食事ばかりだし。その後はなにもないし。
でもクリスマスとかには出かけたがるの、何?
はーあ。
これでもじゃあ、別れないのかと訊かれるのは私でしょうね。
その理由はね。
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