第一話『空の少年』

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第一話『空の少年』

 空は"むなしい"の空。  空は"虚ろ"という言の葉。  空っぽは"何も無い"という意味。  つまり、"僕自身"そのものだ――僕の名前と同じ。  「夕霧(ゆうぎり)水空(みそら)さん。診察のお時間ですよ」  僕という人間は、無意味な存在。  僕という人生は、空っぽな命。  何故なら、僕には"何も無い"のだから――。  「おはよう、水空君。今日の気分はどうかね」  な"虚無色"の白い外套。  灰色がかった白い髪は柔らかくなびく、"埃色の猫"みたいに。  日に焼けていない円やかな色の肌をまばらに刻む、皺の"亀裂"。  皮膚の谷間に埋もれた"黒糖色"の瞳は、優しい曲線を描いて見つめてくる。 ・
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