第一話『空の少年』

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 「こんにちは、夕霧君。ちょうどよかったです」  誰だったっけ……えっと、確か。  茶色い"ヒグマ色の短毛"、賢そうな丸い眼鏡の男の人、皺はない。  常に相手の顔色を窺っている、目線を"虫の触覚"みたいに忙しなく動かす、優しくて哀れな人。  「明後日の午後に"あたため広場"で茶話会をやるから。気が乗ったら、是非来てみてください」  名札を密かに覗き込むと、「水口・精神保健福祉士」と書かれていた。  月に一度は面談をする、僕の担当の支援員らしい。  「水口」さんの手には、二頁くらいの小さな冊子が握られている。  僕はそのまま『あたため広場』の冊子を受け取った。  「……はい……ありがとうございます……」  ここにいるようになってから、一度も行ったことはなく、きっとこれからも行くことはないであろうとも。  たとえ、何枚目になるか数え知れない薄い紙束に、どれほどの希望が詰まっていようとも。  僕の心には波紋一つすら響かなった。  *
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