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「…………」
そもそも僕は過去を思い出したいのか、よく分からなくなってきた。
誰も教えてくれないということは、きっと思い出さない方がいいのかもしれない。
僕自身も、とりわけ思い出したい記憶も理由も何も無い。
ただ、移ろいでゆく季節の空のように、ひたすら時が過ぎ去るのを感じていく。
ただ、空虚に存在するだけの心を眺めていくのだ。
きっと、独りで、永遠に――。
「あ……お願い、待って……」
"雀のようにか細い声"は、僕の耳朶を弱々しく掠った。
奇跡的に拾えた声の痕跡を、目線で辿ってみる。
しかし、声の正体を視認するよりも先に、"真っ黒い毛玉"の感触は僕の足首をくすぐった。
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