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それからというもの、自分でも、どこかぼうっとすることが増えたように思う。今日もドレスを合わせながら、シャーロットはまるでマネキンの姿を見ているかのような心地でいた。少し前なら、ちょっとは心が躍っただろうに、今はどんなに細やかな刺繍を見ても、どんなに豪華なアクセサリーを見ても胸がときめかない。
ジェイコブに送り届けられ帰宅した彼女は、真っ直ぐ自分の部屋へ戻り机に伏した。
「ああ、疲れた」
ため息と同時に溢れた言葉が、彼女の本心だった。自分ではない、全く知らない誰かの結婚式の準備に追われているみたいだ。着飾られ、褒められ、充分幸せなはずなのに、何かが足りなくて。
こんな花嫁ではいけない気がする。いつも優しいジェイコブを思い、けれど、すぐに強く拳を握った。
でも、だって仕方がないじゃない。整えられた爪が肉に食い込む。あれからというもの、何かが手のひらから零れていくような感覚があるのだ。あの日失ってしまった何かだけではなく、それを取り囲む全てが、見えないけれど確実に在る何かが、少しずつ落ちていくような感覚が。
そしていつかは完全に失って、在ったことすら忘れてしまう気がする。そうなった時、果たして私は私なのだろうか?
言いようのない不安と恐怖が押し寄せる。彼女は、固く組んだ両手、その上にある何かから目を離せなかった。
「シャーリィ」
腕に沈んでいたシャーロットは、ふと扉の向こうから聞こえる声に顔を上げた。
「ママ?」
「今、いいかしら」
「ええ」
静かに入ってきた母は、どこか寂しそうな娘の姿に一つ物憂げな息を溢す。
「シャーリィ」
彼女の手をひき、優しく抱き締める。母の温かい匂いに、シャーロットは深く呼吸した。
「ママ、どうしたの」
「話したいことがあったの」
「話したいこと?」
共に寝台へ腰掛け、彼女たちは互いの手を握った。
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