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「目が覚めましたか」
水底から浮き上がるような重みを頭に感じて、それから瞼を開いたとき。シャーロットの目には太陽を背にした男が映った。
誰だろう。油断するとまた沈んでしまいそうな意識を掴み、彼女は乾いた唇を開く。
「ええと、」
「ご自分の名前、覚えていらっしゃいますか」
「シャーロット、です。シャーロット・テイラー」
「そうですね」
彼の微笑みに身動ぐ、その弾みで、指先にあった温もりが離れた。咄嗟に追いかけようとした身体を、「失礼」と青年が優しく制する。
「でも、まだお辛いでしょう。どうか無理なさらず」
「あ、あの。私、何があったのですか? 貴方のことも、その、わからなくて」
恐らく、この人に握られていたのだ。未だ感触の残る手を抱き寄せ彼を見上げた。
初めて会う男だ。至って普通の青年、だと思う。ただ一つ、不思議な光を持つ瞳が印象的で。
「私たち、どこかでお会いしましたか」
「いえ、俺はただの通りがかりで、突然倒れた貴女を介抱しただけです。お会いしたのは初めてですよ」
「そう、ですか」
けれど、何故だろう。シャーロットは、彼のことを知っている気がした。
どうして。きっと、一度会えば忘れられないような人なのだ。どこにでもいるようで、どこにもいないような、そんな人。だから、会ったことがあれば覚えているだろうに、どんなに記憶を辿っても彼の姿は見つからなかった。
探るようなシャーロットの視線に、青年は幾つか瞬きをした後ぎこちなく顔を背ける。そこに彼の心が見える気がして、彼女が更に身を乗り出そうとした、その時だった。勢いよく開く扉の音と「シャーリィ!」の声が空間を裂く。
「ああ、シャーリィ! 無事だったんだね」
「ジャック?」
弾かれたように振り向いたシャーロットは、久しぶりの姿に目を丸くした。
「どうしてここに、まだ大学じゃ」
「君を驚かせたくて黙っていたんだ、昨日が卒業式で……ああいや、そんなことはどうでもいい」
彼は脇目も振らずシャーロットへ駆け寄る。
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