三章

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それから数日後の放課後、魔女学校との交流会の準備のためにユノが生徒会に顔を出すと、そこにはアンリ学園長が来ていた。 「これからは平民の子も実力があればどんどん生徒会の仕事にも携わってもらいたいと思っていたけど、中々難しいとも感じていたの。だけどさすがユノ君ね。あなたを選んでよかったわ」 小柄な学園長が生徒会室に入ったユノに歩み寄り話しかけた。 にっこりと笑ったアンリ学園長に恐縮して「とんでもないです」とユノが返答すると、キリヤから全員中央のテーブルに集まるように、と声がかかった。 「招待状、魔女学校の生徒にも先生にも大変好評よ。うちの生徒たちも関われた子が多いせいか例年よりも交流会に対する関心度が高いみたい。いいアイディアだったわね」 全員揃っていた生徒会のメンバーを前にアンリ学園長はユノとイヴァンに告げた。 「生徒の手作りとはいえ、クオリティの高いものにしたくて紙にする植物選びとか封蝋に使う蝋とかもこだわったしね」 「イヴァンのセンスがよかったからだよ」 「いやいや。ユノの知識と発想力のお陰だよ」 イヴァンも嬉しそうに笑った。 「交流会は大切なイベントよ。この調子で引き続きクラスの境目は取り払って協力していく様子を学園の生徒にもお手本として生徒会が示してほしいの。よろしく頼むわね」 そういうとアンリ学園長は生徒会室から出て行った。 学園長が出ていくと、キリヤが皆の前に立った。 「これから招待状の返信の集計作業もあるが、イヴァンは料理長と当日の料理のコンセプト決め、ユノは楽団と当日の音楽について決めてくれ」 「ちょっと待ってよ! キリヤ! 交流会のダンスパーティの音楽ってすごい重要で今まで僕らで決めてきたじゃないか! こんな平民に音楽の知識なんてないだろ!」 キリヤが言うと、それまでは黙って話を聞いていたシュリが椅子から立ち上がって叫んだ。 「ユノは音楽に詳しい。段取りを組む能力にも長けているから昨年の資料を見れば問題なく任せられるだろう」 キリヤは羊皮紙に書かれた書類に目を落としながら淡々と言う。 「任せられるって……!キリヤだってこの平民が生徒会に入るのは反対だったんじゃないの?!」 「ユノが生徒会に入るのが反対だったわけではない。平民が貴族や王族に交じって生徒会の仕事をするのに適していないと思ったから反対した。だが、ユノの能力を見てそれは間違いであったと気づいた」 「僕たちにない感覚も持ちあわせているから、意見も参考になるしね」 激昂するシュリにキリヤが返すと、イヴァンも続いた。 「僕らはシュリと同様反対です」 「それにこんな平民を特別扱いしていると知れたら、ほかにも特別扱いしてほしい平民が現れて大変なことになります」 双子のマコレとカルキが言うと、シュリも大きく頷いた。 「特別扱いしてほしい平民が現れたって構わないさ。ユノのように能力があれば登用し、無ければ帰ってもらうだけだ。能力のある平民もいるのに、平民だからと言って登用しないのは生徒会にも……ひいてはこの国にも不利益となると僕は気が付いた」 キリヤは反対の意見を言う者にはっきりと言った。 「平民が王族や貴族より劣っているのは見た目から明らかだろ! 汚い髪色に目の色。真っ黒で不吉だよ。『黒の魔法使い』みたいじゃないか」 すると、シュリはこんなことは許容できないとさらに大声を張り上げた。 「いい加減にしろ、シュリ」 対してキリヤは大きな声を出したわけではないが、その声はシュリをぴたりと黙らせた。 怒鳴ったわけでもないのに、その場を従わせる力をもったそれ。 普段キリヤは生徒会長としての立場以上の力を振りかざしたりしない。 だが、今のその声は生徒会長としてのそれではなく、王族の威厳に満ち溢れたものであった。 「……っ」 シュリは迫力に負けて押し黙った。 「いい機会だから話しておく。僕はユノを生徒会の役員として認める。そもそもフライングレースでその能力ははっきりと示したはずだ。そしてシュリ、イヴァンの『占術』によって見てもらったところ、ユノの箒に使用されていた『竜の髭』がちぎれたものが生徒会室のゴミ箱より見つかった」 キリヤが言うとシュリははっとしたように息を呑んだ。
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