三章

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ユノも初めて知る事実に思わず体が強張った。 キリヤはシュリを冷酷に見遣って再び口を開いた。 「そして、その『竜の髭』を僕の侍従に調査させたところ、君の痕跡が見つかった。併せてユノの箒の柄の部分は残っていたのでそれも調べたところ、そこからも君の指紋が確認された」 「……っ」 「そんなデタラメ……っ」 キリヤの言葉を聞いてユノは思わず息を呑み、シュリは金切り声を上げた。 「イヴァンの『占術』によりユノの箒の『竜の髭』が見つかった。出てきた『竜の髭』からは確かに君の指紋が検出されたという侍従の調査も僕はしっかり見たし、証拠は全てこちらに揃っており、『占術』に使ったイヴァンの水晶の像はいつでも公開できる。公開しないのはむしろ情けだと思っていたが、デタラメだというなら学園に証拠を全て提出してもこちらは構わない」 「……っ」 「下手すれば命にも関わるような重大なことだ。アンリ学園長に報告したら君はどうなると思う?」 シュリの美しい顔が歪む。 「恐らく謹慎処分になり、生徒会役員の罷免も免れないだろう。君の実家の家名にも大いに傷がつき、このまま王家の『術師』としていられなくなる可能性もある。今回に限って今後ユノや平民の生徒に対して攻撃的なことをしないと僕に誓うなら見逃してやる」 キリヤが言って、指を鳴らすと誓約書が現れた。 この誓約書は誓いを立てた者が、もし誓いを破れば直ぐ様誓いを立てた相手であるキリヤに誓約不履行の知らせが届くものだ。 「……っ」 「誓うのか、誓わないのか? 早くしてくれ。こんなことに割いている時間はないんだ。返事がないならこのまま学園長室に報告に向かうまでだ」 キリヤの厳しい声が響いた。 「……ち……誓います」 絞りだしたようなシュリの声。 すると、シュリの目の前にあった誓約書にするするとシュリの名が刻まれた。 「マコレとカルキもだ。君らの指紋も同様に見つかっている」 「は……はいっ……誓いますっ」 マコレとカルキもシュリと同様にキリヤに誓いを立てた。 誓約書には二人の名も刻まれた。 「今後はくだらないことに頭を使わずに、生徒会の仕事をきちんと全うするために使ってくれ。分かっているだろうが、誓いを破るようなことがあればその時はすぐに学園長に報告する。二度目はない。その時は放校も覚悟しておくんだな」 ギリギリとシュリは唇を噛みしめ、身を翻すと生徒会室を出て行った。 マコレとカルキもシュリの後に続いた。 三人が出ていくと、キリヤはユノの傍にやってきた。 「学園長に報告するか否かは君が決めることなのに、勝手に決めて悪かった。君の命が危機に晒されたにもかかわらず、シュリの家柄から言って今回の箒に細工をした件だけでは放校にするのは難しい。謹慎だけでは学園に戻ってきたときに、またどんな嫌がらせをしてくるかわからない。だからすぐには報告せずに、抑止の手立てとして使うこととした」 キリヤは椅子に座るユノの傍らに跪いて言った。 「俺のことを考えて決めてくれたって分かっているので、いいです。それより……シュリはキリヤのパートナーなんでしょう? いいんですか? あんなに怒らせて」 「パートナーだろうが何だろうがシュリがしたことは悪いことだ。それを咎めるのは当然のことだ」 キリヤはそう言うと立ち上がった。 「さすがに誓いを立てた直後に何かしてくるとは思えないが、僕は今日この後城に戻ったら、週末の戴冠式が終わるまで学園には戻れそうもない。もちろん、誓いが破られたとの知らせがあれば直ぐに学園に戻るつもりだが、留守の間は君の安全はイヴァンとアンドレアに気を配るように頼んでもいる。それと城から何人かの侍従魔法使いも呼んでいる」 「そんなことまでしてもらわなくても、自分の身は自分で守れますよ」 「そう言うと思った!!」 ユノが伝えると、イヴァンも笑って言った。 「わかっているが、保険だ」 「保険って……もう、キリヤはひどいなぁ。ユノは何となく気づいていたかと思うけど、僕は家のことや政治のこととは関係なく、友人としてキリヤと仲良くしているんだ。いつかシュリのフィザード家に打ち勝って王家専属の『術師』になって公私ともにキリヤを支えたいと思って自分なりに努力しているところ。卑怯なフィザード家がいつまでも王家の『術師』でいるのは良くないからね」 イヴァンが静かに微笑んで言った。 「イヴァン、お前は少し図々しい。いくらキリヤ様が学園内でフランクにと仰っているからと言ってそのような態度は許されるものではないぞ」 アンドレアはもう軍の騎士団に所属しており、小さいころからキリヤに仕える様に教育されているため友人とは少し違う立場のアンドレアが眉を顰める。 「僕が構わないと言っている。アンドレアも学園にいる間は構わない」 「そんなわけには参りません。『光の魔法使い』であるキリヤ様と対等な口を利くなど」 アンドレアが恐れ多いと首を振ったとき生徒会室のドアがノックされた。 キリヤの侍従が迎えに来たようだった。 「じゃあ行ってくる。学園のことは少しの間よろしく頼む」 二人に言った後、キリヤはユノに向き直った。
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