サヨナラ

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サヨナラ

 長年、私と母を見つめてくれ、家族のように暮らしてきたあなた。  あなたを消すこと、あなたとの決別でえられる明るい未来。そのためのサヨナラ。  大切な、これから迎え入れる彼のため、母のため、私のため、ひいては、どうか潔く消えてほしい……消されてほしい。  あなたはずっと私たち母娘(おやこ)を見つめてきた。  いつも間近で、私たちの安否を気遣いながらそばにいた。  それでも、家族のように暮らしてきた日々は忘れます。  気色の悪い、あなたの姿。  くっきり見える、壁のシミ。  私と母は、それが地縛霊だと知っていた。それのチカラがあまりにも強力すぎて、壁画のように相貌も服装も分かるほど、染み出ているんだもの。  あなたとはたまに目が合ったね。  それが気まずいと感じたら家鳴りなんか起こしちゃって。  何かしゃべっていることもあったし、気分屋みたいだし。  不幸中の幸いか、あなた一人のようで助かった。  他にも呼び寄せるものかと思っていたけど、あなたが強すぎて他が入ってこれなかったのかな。ずっとあなた一人なんだと思ってる。    あなたを消さなければ、彼に手料理をふるまえない。家に呼べないから。遠慮してしまうから。  だってそうでしょう、確実に怖がらせてしまうもの。  私たち母娘は、すでにあなたへの恐怖などないからいいけど他の人は違う。  むしろ私たちは、ちょっと情がわいてるぶん、(つら)みがわいてくるぐらい。  家族のような存在だったからね。  でも、あなたを消さなければならない。必要な儀式、資金、痛み、覚悟はできている。  サヨナラの覚悟も十分できている。  気色の悪いあなた、安心して。上等な修行を積んだ、上等な僧侶に頼むから大丈夫。無事に成仏(いける)はず。  成仏()ってください。  私と母の病弱や過去の不遇は一切合切、あなたのくれた怨念(やさしさ)だった。  もっと早く別れるべきだった。  もっと早くあなたを消し去るべきだった。  でも決意したことで、あなたに対する情は、ああ不思議、きれいさっぱりすぐ消えたわ。  だからどうか消えちゃって。  そして浄められちゃってちょうだい。 退散
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